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ぐうたら三男は古代魔語で悠々自適生活を目指す  作者: シロネル
4章

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101/112

第百話 ぐうたら三男、未到達地帯の門を開く

 霧の奥。


 ゆっくりと、“門”が姿を現した。


     ◇


 巨大だった。


 山を切り抜いて作ったかのような白銀の構造体。


 だが石でも金属でもない。


 古代文明特有の、材質そのものが理解できない物質で構成されている。


     ◇


 門の表面には無数の古代魔法陣。


 淡い光。


 流動する文字列。


 そして中央には――。


 巨大な円環構造。


     ◇


 まるで世界そのものを封印しているような門だった。


     ◇


「……なんだあれ」


 騎士の一人が呆然と呟く。


 その気持ちはよく分かった。


 存在感が違う。


 空気が違う。


 門があるだけで、周囲の空間法則そのものが変質している。


     ◇


 教授が静かに息を呑んだ。


「……中央管理領域」


「教授、知ってるんですか」


 セシリアが聞く。


「いや」


 教授は首を横に振る。


「だが、古代文明研究者なら一度は夢見る場所だ」


     ◇


 その声には、研究者としての純粋な畏怖が滲んでいた。


     ◇


「古代文明中枢……」


 教授は門を見上げる。


「管理機構。


 侵食。


 管理権限。


 全ての起点かもしれない」


     ◇


 レイは露骨に嫌そうな顔をした。


「つまり超面倒ってことだな」


「そうとも言うね」


「否定してくれよ」


     ◇


 その時。


 巨大侵食個体が再び脈動した。


 黒い霧が空間断裂全体へ広がる。


 橋が軋む。


     ◇


 仮面の男が静かに言った。


『中央管理領域は既に限界だ』


『侵食を止めるには継承が必要』


「断る」


 レイは即答した。


     ◇


『……何故拒む』


「責任重そうだから」


『…………』


     ◇


 仮面の男が一瞬黙った。


 その沈黙が妙に面白かった。


     ◇


 セシリアが頭を押さえる。


「レイ様、もう少しこう……」


「なんだよ」


「世界の命運がかかってる雰囲気なんですから」


「だから嫌なんだって」


     ◇


 エミリーが小さくため息を吐く。


「レイ様は昔からそうですからね……」


「面倒事は嫌いなんだよ」


「ですが放っておけない」


「うっ」


     ◇


 図星だった。


     ◇


 レイは昔からそうだ。


 ぐうたら。


 昼寝好き。


 美味い飯が好き。


 面倒事は嫌い。


 だが。


 困っている人を見ると、結局放っておけない。


     ◇


 ゴールド地方でも。


 王都スラムでも。


 結局、自分から動いてしまった。


     ◇


「……なんで毎回こうなるかなぁ」


 レイはぼやく。


     ◇


 その時だった。


 門が光る。


     ◇


 巨大円環が回転を始めた。


 低い振動音。


 空間そのものが共鳴している。


     ◇


『管理者候補確認』


『権限照合開始』


『古代魔語適合率確認』


『管理権限反応検出』


     ◇


 白い管理機構が一斉にレイを見る。


 嫌な予感しかしなかった。


     ◇


「……アリア」


「はい」


「これ逃げられる?」


「困難」


「だよなぁ……」


     ◇


 門の表面へ、日本語が浮かび上がる。


 現代人には読めない文字。


 だがレイには理解できた。


     ◇


『管理権限継承待機』


『中央制御領域解放準備』


『最終承認要求』


     ◇


「うわぁ……」


 レイは本気で嫌そうな声を出した。


「完全に押し付ける気じゃん」


     ◇


 教授が静かに言う。


「……だが、開けなければ侵食は止まらない可能性が高い」


「教授までそういうこと言う」


「事実だからね」


     ◇


 橋が再び大きく揺れた。


 巨大侵食個体が動いている。


 黒霧が管理領域へ食い込んでいた。


     ◇


 このままでは崩れる。


 誰の目にも明らかだった。


     ◇


 レイは長く息を吐いた。


「はぁ……」


 本当に、本当に面倒臭そうだった。


     ◇


 だが。


 その目だけは、既に覚悟を決めている。


     ◇


「レイ様」


 エミリーが静かに呼ぶ。


 遠征用装備姿の彼女は、どこまでも落ち着いていた。


     ◇


「……やるんですよね?」


「まぁ……」


 レイは頭を掻く。


「ここで放置すると後で絶対もっと面倒になるし」


「そう言うと思っていました」


     ◇


 セシリアが苦笑した。


「本当に難儀な性格ですね」


「自覚はある」


     ◇


 アリアが静かにレイを見る。


 淡蒼色の瞳。


 感情は薄い。


 だが。


 どこか安心したようにも見えた。


     ◇


「レイ」


「ん?」


「適性、極大」


「嬉しくない」


「でも行動する」


「……まぁな」


     ◇


 レイは門へ向き直る。


 巨大な古代文明の遺産。


 世界の中心。


 未到達地帯中央管理領域。


     ◇


 ゆっくりと手を伸ばした。


     ◇


 その瞬間。


 門全体へ、日本語の、古代魔語の、術式が走る。


 光。


 振動。


 共鳴。


     ◇


 空間そのものが震えた。


     ◇


 レイは静かに古代魔語を紡ぐ。


     ◇


『開錠』


     ◇


 世界が光に包まれた。


     ◇


 巨大な門が、ゆっくりと開き始める。


     ◇


 白い光。


 無限にも見える通路。


 その奥。


 都市が見えた。


     ◇


 古代文明都市。


 未到達地帯中央。


 千七百年以上封印され続けた、人類未踏の領域。


     ◇


 そして。


 その都市の上空には――。


 巨大な黒い“月”が浮かんでいた。


     ◇


 誰も言葉を失う。


 あまりにも異様だった。


     ◇


 仮面の男が静かに呟く。


『ようこそ』


『世界の中枢へ』


     ◇


 レイは嫌そうな顔のまま、ぼそりと呟いた。


「……帰りたい」


 だが。


 その足は止まらなかった。

ついに100話に到達!!

キリよくできなかったので短くなってしまいました…

どこまで続けるかわからないですけど、引き続きよろしくお願いします。

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