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SF短編集 人間は元気ですか  作者: 月極典


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3/8

ギッタン師匠の疑惑


 お笑い専用劇場『ファニー東京』は今日も満員御礼だ。


 自律型AIヒューマノイドによってほとんどの仕事が奪われて以来、生業を求める人間が希望を見出したのがクリエイティブ業界だ。

 

 デザイナー、芸術家、ミュージシャン、小説家、漫画家、映画監督、脚本家、俳優、タレント、芸人など。もちろん、これらを担うAIヒューマノイドも多数存在する。だが、消費はあくまで人間である。人間にはまだ、クリエイティブ分野ではAIに負けていないという、揺るがぬ自負があった。


『やっぱり人間が作った物が一番だ』

『過去の名作は、全部人間製』


 ファニー東京の楽屋となる大部屋に20組の芸人たちがいた。半数がAIヒューマノイド、いわゆる『ノイド芸人』、半数が人間である。ノイド芸人かどうかはすぐにわかる。壁際の充電椅子に、礼儀正しく座っているからだ。目を閉じて微動だにしない彼らは、ぱっと見では瞑想しているように見えるが、ただのスリーブ状態である。

 

 そして、出番になり舞台袖に向かう時には、

「お先に勉強させていただきます」

 とちゃんと挨拶していくのだ。


 そんなノイド芸人を眺めながら、ピン芸人の山脇が煙草を吸っていると、後輩の太田原が声をかけてきた。

「兄さん、聞きました? ギッタン師匠の話」

 漫才コンビ、森家ギッタン・バッコンのツッコミである。今や新お笑いビッグ3の一角とされる売れっ子芸人だ。

「お前、声がデカいよ、ばか。あれだろ、ノイド芸人疑惑。番組でコケた時にスリーブに入ったらしいじゃん」


 シーーッ


 ヒューマノイドの目が開く音がした。見ると、壁際のノイド芸人が一斉にこちらを見ている。何も語らない無感情な目で。その不気味さに背筋が凍った。

「何見てんだ、ばかやろう。スクラップにして屑鉄屋に売っぱらうぞ」

 芸歴の長い山脇の言葉にノイド芸人たちはまた目を閉じた。もちろん喧嘩になっても人間の山脇に勝ち目はないし、万一、スクラップにできても相手の所属事務所に多額の弁償をしなければならない。


 後輩の太田原は、事の経緯を説明した。

「番組止めて、スリーブに入っちゃったギッタン師匠をマネージャーが運ぼうとしたんですけど、重すぎて運べなくて、スタッフと4人がかりでやっと運べたらしいっす」

 目撃した共演者か番組スタッフがリークしたのだろう。


「浮いた話がないとか、ロケ弁に手をつけないとか、師匠の疑惑は前からあったけど、MHKのスペシャル番組で解析されてたろ? 人間ならではの脅威のツッコミ速度とか言って。たいがいバカバカしい番組だったけどな」


「あれもどうやらうちの事務所とグルになって作ったらしいっすよ。これでノイド芸人ってバレたら無差別漫才グランプリ3連覇も剥奪ですねぇ」


 山脇は周りを見渡したあと、太田原の肩に手を置き、耳に顔を近づけた。

「じゃあ、コケる時は気をつけないとな……俺も」

 そう言って、膝に抱えたバッテリー入りのリュックを軽く叩いた。

 

「はい……俺もっす」

 太田原の表情から、感情は読み取れなかった。


 リュックを背負ったまま、相方の元へ戻る後輩の背中を無表情に眺めながら、山脇は煙草の火を消した。

 

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