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SF短編集 人間は元気ですか  作者: 月極典


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出生枠抽選


 彼女と訪れた市役所の中は閑散としていた。ほとんどの手続きがオンライン化している現在、わざわざ市役所、それも本庁まで出向く人は稀なのだろう。昔は支所が近所にあったが、それも今は閉鎖されている。


 結婚を決めた俺たちは、彼女の希望もあって、婚姻届を直接出しにきた。だが、俺はあまり気乗りしなかった。役所の人からどんな反応をされるか、憂鬱ですらあった。


 担当窓口の前に立つと、50代くらいの男性職員が少し驚いた表情でこちらを見た。そんなに人が来ないのか。

「婚姻ですか?」


「はい」


「こちらにお掛けください。書類拝見しますね。はぁ、はぁ、『マル通』同士でいらっしゃる」

 通称マル通。DNA解析が進んだ現代では、出産時に遺伝子検査が行われ、ベースとなる能力判定が下される。制度上は二種類、通常と優良だ。実際はもっと細かい区分けがあるが、役所の手続き上はマル通とマル優で分けられる。俺と彼女はどちらもマル通だ。

 

「マル通同士だと何か問題あります?」

 いきなりの物言いに、俺はあからさまに不機嫌になった。だから対面は嫌だったのだ。


「これは失礼。マル通同士の婚姻だと『ウェルビーイング給付』が一割ほど減額になるので。多くは減額のない『どちらかがマル優』あるいは『マル優同士』のケースが多いので」

 ウェルビーイング給付、まぁ要するにベーシックインカム、毎月国から支払われる国民定額給付金だ。この制度ができる時、国民から募って決まった名前らしい。


 今の世の中、人間に割り当てられる仕事は少ない。ほとんどの仕事を自律型AIヒューマノイドがやってのけるからだ。仕事についている人は起業家か、マル優の一部のエリートだけだ。目の前の職員も絶対にマル優だ。俺たちを見る、品定めするような目がそう語っている。


「マル通同士の場合、籍を入れず、同棲で済ます方が多いのと違いますか?」

 婚姻届を処理しながら、こいつは何を言ってるんだ。まるでお前らの結婚に何のメリットがある? とでも言いたげだ。


「子供が……欲しいんです」

 彼女が初めて口を開いた。

「抽選ですよ?」

 書類からじろりと目を上げて、職員は食い気味に言った。嫌な野郎だ。


 人口を抑制するための出生計画。マル優同士はマル優の子が産まれるまで出産が可能、マル優とマル通は一枠、マル通同士は超低確率の抽選に当選すれば一枠もらえる。これによって日本の人口は最盛期の一割まで減少した。


 出生枠の抽選は窓口の方が当選確率が高い。そんなオカルトじみた話に彼女はすがるように、窓口に行きたいと言った。


「必ず、当てて見せます」

 彼女は静かに意気込む。確率は非公表だが、だいたい1%と言われている。単発抽選でと考えたらあまり期待できない数字だ。


「それでは受理の方、進めますね。えーっと、お二人とも無職でウェルビーイングフル支給ですねぇ。受理後、半年後の支給分から一人当たり5%減額になりますので、お気をつけください」

 無職って……わざわざ声に出すなよ。ほとんどの国民が無職だろうが。


「それでは、抽選を行います。こちらにお二人の人差し指を入れていただいて、指紋認証ができましたら、自動でスタートします。そちらのモニターにご注目」

 窓口のテーブルにあるモニターに出生枠抽選システムと派手目なタイトル画面が映し出されている。


 ピーーピッピッピ、ピピッピピーー!

 笛と共に画面にサンバのリズムに合わせて踊るアニメ調の女性。

「当たりました!?」

 彼女は言うが、そんなわけない。

「まだオープニングですねぇ。5人ですか、デフォですね」

 うるせぇ、黙ってろ。俺は熱くなっているのか、手のひらにジワリと汗をかいているのを感じる。左手で彼女の肩を抱く。身体が熱い。


 画面に三つの赤い幕が現れ、ドラムロールが聞こえた。

 職員のおっさんは幕の色を確認して、

「赤……か」

 書類に目を落とした。俺にもわかる、

 赤じゃ当たらない。そういうもんだ。


 ドゥルン、ドゥルン!


 ドラムロールが続く中、SEが鳴って赤い幕の両端が金の幕に変わった。

「ん、チャンスアップ……しかも二枚」

 モニターを覗いたおっさんが呟く。

 俺の胸がドクンドクンと高鳴る。

 これは、熱ッチィやつだ。激熱だ!

 彼女の肩を抱く左手に力が入る。


 ドラムロールが終わって幕が左、中、右、左の順に高速で光っていく。

 ドゥ、ドゥ、ドゥ、ドゥ……

 だんだんとゆっくりになる。真ん中の赤でほぼ止まりかけた。駄目か、駄目なのか?


 ドゥッ

 中の赤幕から右の金幕に移動した!

 キタコレ。もう一度左に移動しても金幕だ。

 大当たりゲットだぜ!

 俺は思わず胸のタバコを出して火をつけそうになる。


 ドゥルッ

 え? 光が右の金幕から真ん中の赤幕に戻って止まった。

 そして、幕が開いて案の定、残念の文字。

 ぐにゃ〜っ…………じゃねぇ!


「クソ台やん!」

 思わず言った。

 わかっている。

 これは遊技台じゃないし、ここはパチ屋でもない。


「はい、えーっと抽選に外れましたので、出生枠は無しですね。12番の窓口で放棄された出生枠の仲介をしていますので、順番待ちになりますが、ご相談ください。お疲れ様でした!」


 仲介。出生枠の売買が行われている。それには相当の金がいる。だが、今の俺たちにはない。

 

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