第216話 1539年 9歳 蝦夷地の闇、ロシア事件の裏に400人の海賊
毎日、水原親朝は執務をしている。
忙しい。
蝦夷地は美味しいものが多いという若様の言葉に釣られて来た。
確かに、越後でも食べられないようなカニやウニが本当に美味しい。
働く価値はある。
――だが、忙し過ぎる。
おかげで少し痩せた。
あんなに食べているのに。
その時、部下が俺の部屋に飛び込んできた。
部下
「大変です。国際問題です。アイヌ人がロシア人を捕まえてきました」
水原親朝
「それだけではわからん。順を追って話せ」
部下
「ロシア人6人がアイヌの神聖地で狩りをしたのです。アイヌは止めたのですが、ロシア人はアイヌを殴る蹴るの暴行を加えました。村のアイヌの男達でロシア人達を拘束しました。アイヌ人は自分達のやり方で処罰を与えようとしましたが、村長は長尾家に世話になっているのだからロシア人を引き渡そうと言って連れて来てくれました」
水原親朝
「村長の良い判断だ。これがロシア人の豪族とかであれば国際問題になる所だ。会いに行こう」
水原親朝はまず、連れて来てくれたアイヌの村長に礼を言い、見舞金と物資を渡す。
今後も友人であり続けたいことを伝えた。
そしてロシア人に会いに行く。
ロシア人は激昂している。
水原親朝の顔を見るなり、
ロシア人
「お前が一番偉い奴か?俺達は日本の役人に金を払い、許可を取った。それで狩りをした。狩りをして何が悪い。俺達を解放しろ。そうでないと本国で問題にしてやるぞ。軍艦を派遣させる。すぐ解放しろ」
日本語が分かるロシア人が通訳した。
水原親朝
「俺達はお前達が狩りをした事で拘束はしていない。お前達はアイヌを暴行し、傷をつけた。だから拘束している。しかし、ロシアと長尾家の友好関係から牢獄ではない場所で拘束しよう。食事も用意する」
ロシア人
「確かに俺達はあまりにしつこく狩りの邪魔をするから殴った。悪かった。しかし、俺達は日本人の許可を取ったのだ。止められる理由はないだろう。」
水原親朝
「それはこちらで調査する。」
牢獄を眺め、
水原親朝
「ここよりは、眺めの良い所で拘束する。ちゃんと食事も用意する。但し、暴行した罪は消えないのだから拘束は継続する」
ロシア人
「わかった。お前はまだ話のわかる奴だな」
部下
「どうするのですか」
水原親朝
「決まっているだろ。こんなに面倒臭いことを押し付ける相手は決まっている」
次の日。
水原親朝は上司の直江景綱の所に、一部始終を報告した。
水原親朝(心の声)
「こんな外交の面倒臭いことは上司に押し付けて、俺は帰ったら美味しいウニやホタテを馴染みの漁師が持って来てくれる事になっているのだ。それで美味い酒を一杯」
直江景綱
「さてと、面倒臭い事は上司の俺に押し付けてというお前の腹は読めている。お前は部下と手分けしてロシア人を騙したという日本人の役人という奴を調べろ。調べるまで帰るなよ」(ニヤリ)
水原親朝(心の声)
「鬼上司ーーーー!!」
夜9時を過ぎても、わからずであった。
直江は水原親朝や他の部下も家に帰して、考え込む。
さてどうするか。
<緊迫!蝦夷地の裏で動く影>
次の日の朝。
直江の部下
「直江様、最近アイヌから嘆願が多くなっています」
直江
「何の嘆願だ?」
直江の部下
「アイヌ人の子供を誘拐して食料や金品をせしめる奴らが多くなっています」
直江
「最近どうなっているんだ?ロシア人を騙した偽役人といい、誘拐犯といい。とにかく調査しろ。犯人を探し出せ。アイヌにも聞け」
結果は何も出てこない。
水原親朝に聞いても、偽役人はいまだ見つかっていない。
直江のこれまでの経験上、これはあり得ないことだった。
犯罪者の影が見えないのである。
情報統制されているかのように、何も出てこない。
部下が無能というわけでもない。
水原親朝のように職務を逃げる部下はいるが、アイツもやる時はやるやつだ。
場面が変わる。
ここは奥尻島(蝦夷地本土に近い島)のある場所。
ここは蠣崎氏の元仲間や海賊の一大拠点となっていた。
約400人ほどだ。
蠣崎氏とは、上杉龍義が蝦夷地を支配する前に蝦夷地を支配していた者だ。
ここのボスは、蠣崎氏(蠣崎季繁本家)のいとこ、蠣崎元長である。
蠣崎元長は長尾家の政情を揺るがす事を目的として、安東氏から金を引っ張り、海賊や小悪党を集め悪事を繰り返していた。
集めた金は安東氏に上納している。
蠣崎元長が優れているのは情報統制と標準化で、長尾家の情報網に引っかからないよう蝦夷地の広さを活かして金を集めている事だ。
蠣崎元長は全く悪い事をしない情報屋を多数抱えていた。
情報屋は情報を出すだけなので、蠣崎元長達の事は一切知らされていない。
だから直江景綱に情報が漏れていなかったのだ。
蠣崎元長
「長尾家の奴ら気づいてないな、バカどもが」
直江景綱は、組織化された犯罪組織があるという事だけは気づいていた。
直江景綱
「突破口が欲しい。一番有効な情報の提供者には4貫(4000文)出すと蝦夷地中にお触れを出せ」
この4貫に困ったのは蠣崎元長だ。
400名もいれば、いつ裏切り者が出てきてもおかしくない。
蠣崎元長は情報統制に「4人組」という制度を作っていた。
4人の内一人でもルール違反をすると、4人の連帯責任にするというものだ。
しかし、ある4人組が犯罪者の血を騒がせた。
「おい、一人1貫あれば本土でもそれなりに良い暮らし出来るぞ」
「そうだな、蝦夷地は寒いし」
金と寒さを理由に、蠣崎元長は売られた。
直江は情報を手にした。
部下に調査をさせて事実が確認出来たので腹は立つが、犯罪者に金を渡した。
若様が近日来るということで甘粕も函館に来ていた。
直江は甘粕に事情を説明する。
甘粕
「若様が二三日以内に蝦夷地に来られる。」
直江
「言いたい事はわかる。若様が来る前に大掃除をしないとね」
甘粕
「蝦夷地を綺麗にしよう」
夜明け前の奇襲とした。
まず海側から甘粕が鐘を鳴らし、海側から近づく。
これで海へ逃亡という一番面倒臭い選択肢が消える。
陸側からは直江が1000名の兵士に槍を構えさせ突入させていく。
一部抵抗したが槍の餌食となった。
直江
「蠣崎元長はどこかー、元凶を捕まえろ」
部下から報告があり、逃げたようだ。
一方、蠣崎元長は山の中を走っていた。
山の洞窟に逃亡用の金と武器と食料があるのだ。
もう部下なんて信用できねーー。
一人で山の洞窟を目指している。
洞窟が見えた。
中に入る。
金と武器と食料は無事だ。
バカどもが、俺は森へ消える。
ほとぼりが冷めたら安東氏の所で再起する。
洞窟から出てきたら、水原親朝が武装した兵士10人とともにいた。
密告者が洞窟の隠し場所まで報告していたのだ。
水原親朝
「抵抗しても良いけど、殺すだけだぞ。」
その言葉で抵抗を諦め投降した。
水原の部下
「終わりましたね、今日は何を食べるのですか?」
水原親朝
「ウニとホタテ、お前も来るか?酒もある」
水原の部下
「是非」
海側の甘粕と陸側の直江の一斉検挙は終了した。
直江は蠣崎元長に色々聞くが、だんまりだ。
直江
「素直に喋ったら減刑してやるぞ」
蠣崎元長
「本当か、お前の所の若様にも誓えるか?」
直江
「誓う」
蠣崎元長は減刑に釣られ、ロシアも誘拐も全て蠣崎元長達の犯行と自供した。
蠣崎元長
「喋ったぞ、釈放しろ」
直江
「苦しんでから死刑ではなく、縛り首だけで勘弁してやる」
蠣崎元長
「どのみち死刑じゃねーかー」
直江
「苦しんで死ぬかぽっくり行けるかで違うぞ」
蠣崎元長
「確かに。イヤ、そうじゃなくて俺を殺すな」
直江
「そしたらロシア人に謝れ、死刑までの時間を伸ばしてやる」
蠣崎元長はロシア人の元へ行き謝った。
蠣崎元長
「俺は最初から安東氏の元で兵士やってればよかった、余計な夢みちまった」
蠣崎元長は1週間美味しい物は食べさせてもらってから縛り首が実行された。
以上の事が報告された。
甘粕と直江が、安東とロシアをどうすると聞いてきた。
俺
「安東のつぶす時期は南部次第だな。長尾家は不公平取引でない限り自由貿易を標榜する。だからロシア船が来ても不当な扱いはしない。しかし奴らが不当な取引や暴力をしてきた場合は相応の報いを与えてやれ。今回のロシア人はアイヌを傷つけたのだから一定期間の拘束は当然だ。その代わりロシア人に通商の手形をくれてやれ。この価値がわからん奴ではないだろ」
甘粕
「若様は次はロシアですか?」
俺
「違う」
一拍置いて、続けた。
俺
「次は世界だよ」
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