第139話 1538年 8歳 細川晴元が来たぞ。
前回、
数的優位で長駆遠征していた木沢長政に対し、
居城を落とすことで進軍を止め、徹夜で引き返させることに成功した。
疲労が頂点に達したその瞬間を突き、
約二倍の敵を討てた。
<幾内の扱い>
柿崎と馬場が俺の部屋に来て、今後の計画を話し合う。
二人とも、せっかく奪取した普門寺城を、ほぼ無償で細川晴元に渡すことが面白くない様子だ。
柿崎
「若様、普門寺城を橋頭堡として幾内で勢力を広げてはどうでしょう。
兵士も現地採用を増やし、近隣の国人衆を調略していけば、
細川晴元ではなく長尾家が将軍家を奉ることも出来ますぞ」
俺
「確かに、柿崎の言う通り橋頭堡には出来る。
だが、ここでの俺たちは“他所者”だ。
国人衆も大名も従わない。
補給線を断たれて終わりだよ。
だから――
この地から得られるものは、すべて越後に持ち帰る」
柿崎
「……どういう事ですか?」
俺
「この城の財産はもちろんだが、
細川の許可を取って、幾内で越後への移住者募集を行う。
対象は健康な三十五歳以下の男女、または独身者。
越後永住希望者とし、到着後に一家族五百文を贈呈する。
幾内中に立札を二千ほど立てる。
一万人くらいは来るだろうな。
新田開発、鉱山、工場、蝦夷地――
使い道はいくらでもある。
若い人間を取ってしまえば、
領地を占領したのと変わらない効果があるぞ」
織田信長の楽市楽座は、
商人が一都市に千人から五千人ほど集まる政策だ。
だが俺の募集であれば、
農民、商人、工場勤めなど、幅広い人材を呼び込める。
無論、
一家族に五百文を支払える財力があることが前提だ。
一万人規模なら、
独身者と家族連れを含めて、
支出は二千五百貫から三千五百貫ほどになる。
<細川晴元の来訪>
ほどなくして、細川晴元が普門寺城にやって来た。
恵比須顔である。
自らは手を汚さず、
長年の仇敵が滅び、領地まで手に入るのだ。
浮かれない方がおかしい。
俺
「こちらが、木沢長政の家老、正妻、側室、
およびその子供たちです。お引き取りください」
細川晴元の供回りが受け取る。
細川晴元
「上杉龍義殿、かたじけない。
今回も実に助かった。
約束通り、越中の守護大名に任命しようぞ」
俺
「ありがとうございます。
ですが三好氏が動かなかったため、
こちらは二倍の兵力と戦うことになりました。
そちらには、どのようなご事情が?」
細川晴元
「儂は再三再四、出陣を促した。
だが『上杉はどうせ勝つのだから無駄』と言って、
動こうとしなかったのだ」
俺
「……本当に、三好氏に殺されますよ。
若いですが、三好長慶は将来の禍根になります」
細川晴元
「それは、まことか?」
俺
「間違いなく。
すでに片鱗は見せているはずです」
細川晴元
「……確かにの。
分かった。必ず何とかする。
また面倒をかけるやもしれんが、よろしく頼む」
俺
「それと、もう一つお願いがありまして。
木沢長政軍から、少し人を頂きたい。
加えて、幾内で越後への移住者を募集する立札を立てたいのですが」
細川晴元
「構わぬ。
儂が受けた恩に比べれば、容易いことよ」
俺
「移住者は陸路で越後へ向かわせます。
そのため、加賀を通らねばなりません。
幕府からの通行許可命令を、
石山本願寺・証如殿と、
加賀の責任者・下間頼秀殿宛てに頂きたい」
細川晴元
「造作もない」
俺
「では、お付きの方をお借りします。
柿崎、馬場。幾内に立札を二千ほど立ててくれ」
柿崎・馬場
「承知致しました」
<人は国力>
細川晴元が去った後、
供の者を連れ、幾内各地を回って立札を設置した。
結果――
一か月ほどで、想定を上回る一万二千人の健常な男女が集まった。
三十五歳以下、赤ん坊や子供も含めてである。
不健康な者、素行不良は除外する。
木沢長政に、ほぼ無傷で勝ったことが大きかった。
人は敗者ではなく、勝者に付く。
敗者になれば、重税、労役、無理難題が待つ。
勝者であれば、仕事があり、食い扶持がある。
ある者は、
「越後で人生一発逆転だ」と言い、
ある者は、
「腹いっぱい飯が食える」と語った。
まるでゴールドラッシュだ。
越後に着いてから五百文。
その条件もあり、一万二千人が集まった。
噂は広がり、
幾内以外からも人が流れ込んでいる。
敵国の間者が混じるのは、織り込み済みだ。
後で排除すればいい。
木沢長政軍からスカウトした三百人も同行させる。
移住者を率いる隊長は、馬場に任せた。
これに、
津村淳之介、環金鉄男、鬼瓦武蔵の新人三人。
さらに、軽騎兵五百人を付ける。
馬場に一万貫を渡す。
俺
「道中、
一万二千人を飢えさせないことだけを最優先にしろ」
出発の時期は、馬場たちの判断に任せた。
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