第138話 1538年 8歳 木沢長政との決戦だぞ。
細川晴元から届いたのは、
木沢長政が五千を率いて京都へ進軍したという報せだった。
正面から追えば数で劣る。
勝ち目はない。
ならば狙うべきは、留守となる居城――普門寺城。
徹夜で引き返す敵を、
最も脆い瞬間で叩く。
そして今、
その敵は目の前にいる。
明け方四時、普門寺城を出発する。
五時、淀川近く――勝龍寺城南の平地に到着した。
勝龍寺城は細川晴元の配下が領主をしているため、こちらの味方だ。
木沢長政が京都から自らの居城・普門寺城へ戻るには、必ずこの地を通る。
前日に、長弓兵用の高さ三メートルの踏み台を設置してある。
赤目に命じ、木沢長政が放った物見はすべて始末済みだ。
三人娘も戻ってきている。
暗殺は不可能だったらしい。
後で聞くと、見張りだらけでとても近づけなかったとのことだ。
――まあ、当然だろう。
<布陣>
我々は重装歩兵を横陣二列で配置し、最後列に長弓兵百名を置いた。
高さ五メートルの物見台――
長い脚立のような構造の上には、視力が推定十の加地兄弟が二人で登り、三百六十度を監視する。
物見台の支柱役は、高井と浜本だ。
朝六時。
木沢長政が、我々を視界に捉えた。
木沢長政軍は紡錘陣形を取り、中央突破を狙ってくる。
射程の長い長弓兵から、敵中央へ矢を集中させる。
重装歩兵一列目は中央のみ盾と槍を構え、左右は半弓を射たせた。
敵の進撃速度が、目に見えて落ちていく。
それでも、射つ。
敵の士気が急激に下がっているのが分かる。
前日の夜から、徹夜で行軍しているのだ。
――徹夜して勢いがあるのは、最初だけ。
これは戦の鉄則である。
敵兵が三分の二まで減ったところで、重装歩兵に命じる。
半弓を背中のフックに掛け、盾と片手十字槍へ装備変更。
約一分後、重装歩兵を前進させた。
敵が、はっきりと恐怖している。
『者ども、死ねや』
激を飛ばしていた木沢長政軍の隊長は、真っ先に長弓兵の餌食となった。
長弓は、和弓の三倍の射程を持つ。
踏み台から放たれた矢は、百メートル先の顔を貫く。
七十キロの弦を引き、弓自体の重量も四十キロを超える。
選ばれし者だけが扱える弓――それが長弓だ。
よって長弓兵は、全員が身長百八十センチ以上の屈強な者ばかりである。
そんな長弓兵に狙われるのだ。
威力は、凄まじい。
目や顔に矢が突き立つ光景に、木沢長政軍の兵は恐怖するしかない。
見たこともない弓の威力が、確実に士気を削っていく。
矢雨は、十分に続いた。
<崩壊>
重装歩兵が木沢長政軍と衝突すると、敵は明らかに逃げ腰だった。
そこへ――
後方から軽騎兵が突撃する。
木沢長政軍は、完全に崩壊した。
【天王山 麓】
▲
▲ (退路遮断)
▲
────────────────────────
軽騎兵 500 →→→ 【後背突撃】
────────────────────────
木沢長政軍(約5,000)
[紡錘陣形・中央突破]
↓↓↓↓↓
────────────────────────
矢雨集中(長弓100)
=========
踏み台(高さ3m)
────────────────────────
重装歩兵(横陣2列)
[盾+片手十字槍]
中央のみ防御、左右は半弓
────────────────────────
物見台(高さ5m)
加地兄弟(視界360度)
↑ ↑
高井 浜本(支柱)
────────────────────────
淀川 北岸 平原
(幅800m〜1km)
唯一、木沢長政だけが盾兵に囲まれ、必死に激を飛ばしている。
その時――
軽騎兵隊長・小島弥太郎が、単騎でするすると敵兵をすり抜けた。
片手十字槍で喉を突き、
続けて愛用の鎧通しで、木沢長政の首を掻き切る。
小島弥太郎
「お前らの主人、木沢長政は死んだ。
武器を捨てろ。降伏しろ」
大声が、戦場に響く。
敵兵は次々と武器を捨て、降伏の意思を示した。
――敵が武器を捨て、隊長の許可が下りるまで攻撃を続ける。
それが、俺の軍のルールだ。
だが今回は、降伏を許す。
敵は我々とほぼ同数、二千人以上が生き残っている。
極めて珍しい例であり、歴史に残るだろう。
今回の勝因は明確だ。
徹夜行軍で疲労が極限に達したところを、正確に突けたこと。
雷蔵を呼び、船にいる菊姫、鶴姫、宇佐美を普門寺城へ連れてくるよう命じる。
護衛は、元気な軽騎兵五百名だ。
戦後処理には、相当な時間を要した。
二千人もの捕虜がいる。
勝龍寺城へ千五百人を預け、
生き残った隊長格、体格が良く従順そうな兵を選別する。
――三百人。
俺の軍にスカウトした。
全員、次男・三男で独身の若い男だ。
直江津へ連れ帰り、訓練を施すことにする。
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