第137話 1538年 8歳 普門寺城戦後から始まる戦いの準備だぞ
細川晴元から告げられたのは、
木沢長政が五千を率いて京都へ進軍するという報だった。
正面から追撃すれば、こちらは数的不利。
勝ち目はない。
ならば――狙うべきは、留守となる居城。
普門寺城を落とし、木沢長政を引き返させる。
徹夜で戻る疲弊した軍を叩く。
前回は、そのため普門寺城を攻略した。
<戦後処理>
俺は柿崎と北爺から報告を受けた。
まずは、木沢長政軍を俺達が望む戦場に引き釣り出す必要がある。
選んだ兵士に
『卯の刻(朝8時)までに木沢長政が来ないと、家族全員処刑する』
と伝言を頼む予定だ。
問題は――
木沢長政に知らせる兵士を誰にするか、である。
捕えられた二百名の兵士の中で、
誰が信頼できるのか分からない。
逃がした結果、
勝手に行方不明になったり、
こちらの予測外の動きをされては困る。
そのため、捕えられた三人から
「誰が適任か」を聞き出すことにした。
案は三つ。
案1 家老。兵士全員を知っているだろう。
案2 正妻。家老の次に兵士を知っているだろう。
案3 側室。正妻の次に兵士を知っているだろう。
三人から話を聞き、
それぞれが推薦した兵士の顔と話を確認する。
だが――
三人とも、推薦内容に大きな違いはない。
一見しただけでは判断がつかなかった。
俺は安全を最優先し、
側室が選んだ男に決めた。
理由は単純だ。
子供の命がかかっている。
純粋に、
木沢長政軍を呼びに行く能力がある者を
選んでいるはずだからだ。
俺は、側室が選んだ男を
木沢長政軍への伝言役として送り出した。
伝言役兵士は17時に普門寺城を出発。
到着予定は24時頃。
予定通り夜間行軍をしてくれれば、
明け方6時か7時には、
こちらが望む戦場へ引き釣り出せる。
後になって分かったが、
ハズレは家老だった。
家老が推薦した男は、
近隣国人衆の息子。
その父親が国人衆に働きかけ、
こちらの想定外の行動を取られるところだった。
――危ないところだった。
<仕込み>
俺は14時頃、
軽騎兵800と黒子に休憩と睡眠を指示。
さらに、気の利いた三十名ほどに金を渡し、
食料と馬を可能な限り集めさせた。
結果、
馬100頭と食料の確保に成功。
次に、工兵の浜本と高井を呼ぶ。
次の戦場――
勝竜寺城南~山崎の淀川北岸平原。
そこに、
長弓兵用の踏み台を作らせる。
高さ三メートル。
百人程度が乗れ、
長弓を据えられる構造。
金も人も、いくらかけてもいい。
手伝いとして、
加地春綱、吉江宗信、小国頼久を付けた。
浜本は、
思っていることと逆のことを言う変な奴だ。
俺
『出来るか』
浜本
『出来ません』
俺
『出来ると言う事だな。高井、商人や大工相手に浜本を喋らすなよ』
俺や柿崎、馬場、雷蔵、黒崎ら隊長達は、
明るいうちに戦場の地形を確認する。
勝竜寺城南~山崎の淀川北岸平原。
淀川北岸の河岸段丘下の平地と、天王山麓。
幅は800m~1kmの平坦地が続き、
背後には天王山。退路遮断が可能だ。
今回、軽騎兵の得意とする
長駆迂回で後背を突く。
地形確認は重要だった。
<三人娘>
24時頃。
京都近くで夜営していた木沢長政軍に、
普門寺城からの伝言が届く。
木沢長政
『おのれ上杉龍義。何と卑怯な。
奴は神の子と言ってるが、悪魔の子だろ』
激怒する木沢長政。
木沢長政
『者ども聞け。
明け方卯の刻(朝8時)まで城に戻らねば、
我らの家族が皆殺しにされるそうじゃ。
悪鬼に正義の鉄槌を与えるぞ』
意気盛んな木沢長政軍だ。
――それを影から見る者がいる。
三人娘の長女、葵。
長女葵
『あの木沢長政を捕えられたら、私だけで千貫ね。
千貫もらったら私だけ引退して、
後は妹達に頑張ってもらうんだけどな~』
ニヤニヤが止まらない。
出発を知らせないと、
大姉(夜雀)から半殺しにされる。
木沢長政から三キロほど離れた小高い山で、
葵は狼煙を上げた。
中間地点にいるのは、三女・菫。
長女葵は思う。
(あの娘、寝てなきゃいいけど……)
――寝ていたら、
飯抜き一週間と半殺しだ。
案の定、
三女・菫は木の上で寝ていた。
鳥の鳴き声で目覚める。
三女菫
『危なーーーーい。寝てた。
お姉ちゃん達に殺される所だ。中継しないとね』
忍者らしくない、とよく怒られる理由である。
三女菫
『木沢長政軍、出発っと。狼煙出さないと』
狼煙を上げる。
三女菫
『ここを通るなら、捕えるか殺せば私だけ千貫。
結婚引退して、お姉ちゃん達には働いてもらって(笑)
……あーあ、ウンコとかで一人にならないかな』
神様にお願いする三女菫。
願いは叶うのか。
次女楓
『菫は寝てなかったみたいね。
あの娘の後始末は、全部私が見ているんだからね。
あの娘は、それが分かって感謝しているのかしらね。
あの娘が木沢長政を上手く暗殺出来たら、
千貫は「お姉ちゃんのおかげです」って
持って来ないといけないわ』
さて――
早く赤目滝様に報告しないとね。
赤目滝は三人娘の報告をまとめ、俺に伝える。
当然、俺は
三女のウンコ待ち暗殺計画など知らない。
20時頃、
長弓兵用の踏み台完成の報告。
黒崎兄弟、黒田リン、セルパに確認させる。
黒崎兄弟は、
黒田リンを巡って静かな兄弟喧嘩中。
22時過ぎ、
踏み台問題なしとの報告を受ける。
見張り200名(3時間交代)を除き、
全員に食事と睡眠を命じる。
俺は赤目からの報告があれば起きる態勢だ。
24時、
三人娘から「木沢長政出発」の連絡。
翌2時、
三好軍は動かないとの報告。
結果――
1900人対5000人。
戦いは避けられなかった。
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