第46話 ごめん
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この世界にダンジョンを作った女神デスティネル。俺の倒すべき相手。
だがユニークスキルもまた、デスティネルが作ったものだった。
つまり、俺の噛ませ犬スキルも──
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
クガネは拘束を解いて自由になり、俺たちを取り囲むフードの男たちを抑えるものは何もない。
唯一の救いは、奴らから杖を取り上げておいたことだが、状況は変わらず多勢に無勢。ピンチなことに変わりはない。
「さて、形成逆転、いえ、絶対絶命と言ったところでしょうか?」
三叉槍を構えるクガネに相対する。
奴はスキルで槍を引き寄せて回収していたが、その後同じスキルで俺の体を弾き飛ばしてもいた。
奴の言葉を信じるのならばそれは固有スキルということだったが、ならば持てるスキルは一つのはずだ。
なのにあいつは二つの能力を使っている。これはいったいどういうことだ。
仮に奴が自由自在に物や人を移動させることができるのならば、正直俺たちに勝ち目はない。
わからないことだらけだ。
ただでさえ、フードの男たちのせいでミクさんたちが心配だというのに、と、周りを見渡したところでその光景に愕然とする。
なんと、ミクが奴らから奪った杖を使ってフードの男たちをボコボコにしていた。
まだ起き上がってくる奴もいたが、このままでは顔面土砂崩れは免れない。
ムツミはその様子を見て「いけー! やれー!」と大盛り上がりだ。
俺はミクの意外な戦闘力に半分感激、半分ドン引きする。
「み、ミクさん、大丈夫……?」
我ながらおかしな質問だ。その場合大丈夫なのはミクか、それとも敵か。
「大丈夫! こっちは任せて! そっちは任せた!」
えーい! と叫びながらバッタバッタと男たちを殴り倒していく。まるでアマゾネスだ。
破れ被れとも言える攻撃。
しかし俺はその姿に、人知れず励まされていた。
そう、何もかもわからないことだらけだ。
だが、進めばわかることもある。
俺はクガネに向き直った。
「おや、終幕かと思いましたが、第三幕の開演ですか?」
「うるせえ三流役者。お前じゃ役者不足だ」
そして、短刀と三叉槍が激突した。
金属同士がぶつかるギィン! という音が鳴り響き、火花が散る。
正直、短刀と三叉槍では攻撃範囲が違い過ぎて思うように戦えない。
槍相手にこんな狭い場所で一対一なんて自殺行為だ。
正直、攻撃を防ぐので精一杯。
だが耐え忍んでいれば、いつか必ず打開の糸口がある。今は闇雲にでも食らいつかなければ。
「おや、吠えたわりには防戦一方ですね。あれは強がりだったのでしょうか」
俺は黙って槍の猛攻を防ぐ。言い返したかったが、奴の攻撃を防ぐのに精一杯でそれどころではないというのが正直なところだ。
三叉槍に対して短剣というのは思った以上に分が悪く、突きでの攻撃は回避以外で対処ができない。早いところ懐に入りたいがこれほど執拗に攻められてはそれも難しい。
まだ死んでないだけでも褒めてほしいくらいだ。
とはいえこのままではジリ貧。かくなる上は──
「ぐぅッ!」
「なに⁉︎」
俺は脇腹に槍をくらいながら奴の懐に入り込んだ。
そのまま逆手で短剣を切りつけるが、惜しくも切っ先は奴の腕を掠めるにとどまる。
「小癪な!」
クガネは槍を振り回して俺のガードを誘うと、そのまま腹を蹴り飛ばしてきた。
またも奴の得意な距離に戻されてしまうが、お互い傷はひとつ、痛みわけということで良しとしよう。
それに、収穫もあった。
無茶はしてみるものだ。
ニヤリと笑ってみせる。
「お前今、なんでスキルを使わなかった?」
「はい?」
よほど近づかれたことに焦ったのか、クガネが息を荒げる。
「いや、おかしいとは思っていたんだ。お前のユニークスキルは物体を引き寄せることも弾くこともできる。だがさっきお前は俺をスキルで吹き飛ばさず、蹴りを繰り出してきた。なぜだ?」
「それは、詠唱が──」
「間に合わなかったのか? 女神への賛辞を唱えるだけでいいのに?」
”寄せては返す波をもって、万物をあるべき場所へと渡さん“。あいつが最初にスキルを使う時に唱えていた詠唱だ。
寄せては返す波。つまりコイツは──
「もしかしてお前、引き寄せる力と弾く力、交互にしか使えないのか?」
一瞬の沈黙。
そして絶叫があった。
「うあああああああああああ!」
これまでクールな悪役を気取っていたクガネは、仮面を脱ぎ捨てたかのように一変し、怒りの形相を露わにした。
叫びながらめちゃくちゃに三叉槍を振り回して猛追してくる。
「貴様ら! 下等庶民! 如きが! 私と! あの方の! スキルを! 暴くなんて!」
単調になった攻撃はむしろ読みやすい。これぐらい避けるのはわけのないことだ。
だがこのままだと近づけないのも事実。
どこかで片をつけないといけない。
無敵に思えたスキルだが、縛りがあるのなら攻略の筋道はつくれる。
今はただ時を待てばいい。
「今まで私がデスティネル様のためにどれだけ忠を尽くしてきたと思っている! 上納金も、ようやくあの愚兄以上に納められるようになってきたのに! 今になって!」
何の話だ?
錯乱し過ぎてわけのわからないことを喋り始めている。そろそろ頃合いだろうか。
(隙を見て一気に距離を詰めて槍を弾き飛ばす。それで終わりだ)
そして、クガネが大振りの一撃を外した瞬間、俺は大きく足を踏み出し、
「“バウンス”!」
クガネの元へと吸い寄せられた。
「な……しまった!」
「お前らなんかに私の出世の邪魔をされてたまるかぁ!」
ザブシュッ!!
俺の足に三叉槍が深々と突き刺さった。
「があああああああっ!」
ものすごく痛い。頭で火花が散っているみたいにバチバチと光が点滅している。
だが寸前で体をよじっていなければ刺さったのは足ではなく腹だった。そうなればもう立っていられなかっただろう。
「クソ野郎!」
俺は痛みの怒りを拳に乗せて奴をぶん殴ろうとするが、
「“バウンス”!」
直後、またもクガネのスキルによって壁へと叩きつけられ。
どういうことだ。明らかにおかしい。詠唱せずにスキル名を叫ぶだけで発動できるなんて。これも女神への賛辞とかいうやつなのか?
いや、もしできるのなら最初からやっていたはずだ。ならば戦いの途中からできるようになったと考えるのが自然。
俺はなんとか顔を起こしてクガネの方を観察する」
「……あれか」
見れば、奴の腕で見覚えのないバンドが発光している。
遺物か。今まで使っていなかったということは何か代償があるのだろうか。
いずれにせよ、このまま吸い寄せと吹き飛ばしを繰り返されたら身動き一つ取れない。いや、そんな悠長なことを言っている間に、次の吸い込みで腹を刺されれば今度こそ終わりだ。
俺が死ねば次はミクとムツミだ。
それだけは絶対に避けなければならない。
どうする?
時間がない。何か策を講じるのなら、今すぐできるものでないとダメだ。
あたりを見渡すと、ミクがちょうどフードの男たちを棍棒で倒し終えたところだった。
そして思いつく。
これしかない。
「ああ、また俺は……」
だが、不思議と悪い気はしなかった。
「どうしたクガネ! そんなもんかお前の力は!」
「なに⁉︎」
クガネの額に青筋が浮かぶ。
「もうMPが切れちまったか? そうじゃなきゃさっさとスキルを発動しろ! お前は俺が、必ず倒してやる!」
ガチャリ。運命の歯車が切り替わる音がする。
「たかが下僕が偉そうな口を……いいでしょう、望み通り殺して差し上げます! “バウンス”!」
体が宙へ浮く感じがする。
心の中でミクに謝る。目の前で嫌な光景を見せることになってごめん。心配してくれたのに、またこんな目に遭ってごめん。自分で倒したかったんだ。本当だ。だけどやっぱり俺にはできなかったよ。
俺はこんな役しかできないけれど。
あとは任せた。
三叉槍が腹を突き破る感覚がした。
そうして、噛ませ犬スキルが発動した。
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