tame6 神楯のゼウス
教会の上にいた人間が地面にゆっくりと降りてくる、長い銀髪をポニーテールに、顔つきこそ優しく笑顔を浮かべているがこの裏で何を考えているか分からない雰囲気を纏っている。服はさっきの奴と似たデザインのカソック、だがこちらの色は白だ。そして何より目立つのが背中から生えている六枚の翼だ。
(さすがにこのままだとマズい)
だがどう行動すれば最適解なのかわからない、相手は地面に降りてきたこいつは俺の近くまで来るが
「それ以上近づくな。」
ティアがそれを許さない、そんなティアを見てもゼウスは
「待って待って、ボクを敵だと思わないでおくれって。それより君のご主人は、ここで感覚共有のスキルの修正をしておかないとね。――いずれ何百万体分もの思考と五感を一気に抱え込んで頭が壊れて、二度とこの世界に来ることができなくなるよ?」
「は?」
深刻な3D酔いで吐きそうになりながら、思わず素っ頓狂な声が出た。二度とログインできなくなるって、一体どういうことだ?
「ただでさえ君は今人が一日に見る光景の三倍の光景を見て記憶しているの、このままだと君は仮想の死ではなく現実で死んでしまう、だから今から抑止の権限で軽くスキルを修正させてもらうけど、問題ないよね?」
「わ、わかった……」
ゲームで死ぬは勘弁願いたい、修正してくれるならこちからお願いしたい。
彼(?)が俺の額に触れると視界の歪みや気持ち悪さがたちまち治っていく、これが抑止力NPCの力か。
「パッシブだった感覚共有と新たに視覚共有を分離、視覚共有をオンオフ可能のアクティブスキルにしたよ、基本的な仕様は変わらないけどこれでさっきみたいな気持ち悪さは起こさないはずだから」
「助かる」
こういう風に修正されていくのか、このゲームはまだ始めたばかりだからこういう目の前でスキルの修正が経験ができると新鮮だな。
「ハイ、お終い」
終わり、と言われてもイマイチ実感がなかったのでスキル画面を確認する。すると感覚共有はしっかりパッシブからアクティブ蘭に移動していた。だが一つ気になることができた
「なぁ。あんたら『抑止力』は、一体何のためにこんなことをしてるんだ? プレイヤーの監視以外にも、何か目的があるんだろ」
この人たちはGMみたいなものと聞いたが、それ以上の意味がありそうだ
「君たちの視点で言えば良いゲームに近づける為っていうのが一つ、こちらの世界都合で言うなら近い将来、分かりやすく言えば人間対悪の『戦争』が起きるんだよ。そちらの言葉を借りるなら大規模イベントの一種になるけど、僕らにとっては人類どころか世界存亡をかけた一戦だからね。少しでも強力な戦力が欲しいっていうのが一つ」
……悪? 人間対魔物ではないのか
「さっき君が戦ってたヴァルガ教っているでしょ? あれの主神が敵がボス」
「ってことはヴァルガっていうのが敵になるのか」
「そうそう!、そいつは一度姿を現せば世界を混沌に陥れる存在だからね、ボクらからしたら絶対に倒さないといけない相手なんだ」
「なるほどなぁ……」
ゲームでいうラスボスと、かネトゲでよくいるレイドボス的な奴なのかな? と思った、それと……
「未来の魔王ってなんだ? ティアのことか?」
こいつが自己紹介の際に放った未来の魔王、という言葉が引っかかる。少なくともプレイヤーをさす言葉ではないだろ。
「いや、君だよドラゴニア君。君は文字通り魔物の王になる、どう足掻いてもね」
「は?」
ちょっと待てちょっと待て、どういう事だよ。ゼウスは更に続ける。
「問題は魔王となったその後だ、毎日バッタバタの大騒ぎする笑劇みたいな生活を送るか、その魔物を使ってこのゲームそのものを混乱に陥れる血生臭い劇をするかボクは今から楽しみで仕方な……」
「前者で」
迷わず食い気味に即答する、第一そんな戦争戦争ってやってらんないでしょ、シリアルキラーじゃあるまいし。あとこの人セリフが厨二っぽくなった瞬間すごく声音が楽しそうになってたけど厨二病こじれてるのかな? なんかソレイユさんと比べて丁寧に口調作るの馬鹿らしくなってきた。
「第一他のネトゲでもPVPばかりとか食傷気味になるタイプの人間なんで俺」
真面目な話あんな十時間二十時間罵倒したりされたりしながらPVPとか格ゲーできる奴は個人的にすごいと思う、俺は絶対にできない。
「ハハッそっかそっかこれは面白いものが見れそうだ……」
ゼウスはこちらに関心を持ったようなイメージを受ける、雰囲気でなんとなくそう思った。
「それじゃあボクは他のプレイヤーも監視しなくちゃいけないからこれで失礼するよ」
「あいーっす、お勤めご苦労さんでーす」
それを聞いたゼウスは六枚の翼を羽ばたかせて遥か上空に消え去っていく、できれば二度と会いたくない。
「ご主人……」
元の姿に戻ったティアがこちらを心配そうに見つめてくる、こいつが言いたいことはまぁわかる。
「心配すんなって、魔王だかなんだか知らねえけど、俺はテイマーやり続けるよ」
頭をこちょこちょ擽ってやるとすぐに幸せそうな表情になった。こいつはこういう顔が一番よく似合う。
「あの……もうよろしいでしょうか」
気付いたら若い衆と共に木に擬態してた大将がこちらに近づいてくる、さすがに抑止力NPCは騙せてないんじゃないかと思うとまた笑いそうになる。
「悪い悪い、こっちの事情でグダグダになっちまった」
「いえ……。ひとまず、事の大元を解決していただいたお礼のお話をしたいので、もう一度、我らの村まで来てはいただけないでしょうか?」
あ、そういえばこれ、クエストの途中だったな。色々イベントが怒涛の勢いで起きすぎて、すっかり忘れていた。
「分かった、ロボも行くぞー!」
「了解しやしたー!」
暫く姿を見ていないと思い叫んだら廃教会の扉を破壊しながら現れるロボ、静かだと思ったら中を調べていたらしい。後で報告してもらおうか……




