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idealonline~白き龍と魔王~  作者: 十月
誕生、魔獣大都市
7/21

tame5 ウェアウルフ/ミノタウロス 後半

 解毒薬を買い込みミノタウロスの元に戻る、彼はその大きな体をうまい具合に木のマネをして誤魔化していた。注意深く見ないと分からなかったが気付いた時には思わず爆笑してしまった。


「むぅ……こちらです」


 そのせいでミノタウロスは少し落ち込んでしまったが、村まで案内してくれる。


「着きました」


 そこはきっと人間と関わらずに、静かにミノタウロス達が自給自足で暮らしていた場所だったんだろう。


 それが今では怪しい紫色の煙が立ち込め、この村の外を誰一人として歩いていない。


 そういえば俺も麻痺毒の影響は受けてないように感じている、現に体は普通に動く。


「恐らく感覚共有のスキルの影響ですね、ボクは色々な耐性が高いので」


 ずっと黙っていたティアが口を開くそういう事か、ティアがいてくれて助かった。もしいなかったと考えると……いややめておこう


「毒にやられたモノはこちらです」


 ミノタウロスに案内されたのはかなりデカイ木造の家だった役場か何かかここは? そこに大勢のミノタウロスが寝かされていた。


「一つだけ分かってほしいことがある、これでダメだったら原因を解決する以外手がない、それにいつ直るかは分かんねえ」 


「承知しております」


 ここまで連れてきてくれたミノタウロスに解毒薬を渡す、それをミノタウロスが他のミノタウロスに渡して倒れていた者に飲ませていく。すると……


「うっ……」


 体が頑丈そうな大人にはすぐ効果が現れたのか起き上る、だが子供の方は回復力の問題かすぐ動き出したのは少ない。


「やはり大元を消し去る必要がありますね……」


  あの渋い声のミノタウロスが戻って来てそう零す


「だな、薬でどうにかなったけどずっとそれでどうにかできる訳じゃない」


 ――――クエストリストが更新されました―――


 俺がそう言うと視界右下にそういう文字が見える。クエストリストのウィンドウを呼び出すと


【"ヴァルガ教"を倒せ


 彼らの自由を奪う教団、ヴァルガ教の教団員を倒さなければこの霧は晴れない! 今すぐ森の奥にある教会の破壊と団員を倒そう! ※テイマー・ソロ限定】


 というクエストが発生していた。テイマー限定の文字を見て思い出すのはルーさんとのメッセージのやり取り


※※※ 


『一番最初の町のすぐ横にある森って誰か住んでたりするんですか?』


 『そう言う話は聞かなかったなぁ、というかあそこの森はテイマー以外だとシステム的に近寄れなかったし、テイマーになっても近寄ったらすぐ麻痺になってた場所だよ?』


 『分かりました、ありがとうございます』


※※※


 ヴァルガ教、これこそが全ての元凶だろう。だがこいつは恐らく強敵、下手すればレベルも上だ。


 ゲームにおいて数字の羅列は絶対だ、1でも大きい方が強い、10も開いたらまず攻撃が通りにくくなる、100も離れれば一発もらって生き残ってたらラッキー、1000も離れたら撫でるだけで殺されそうだ。


「ティア」


「はい!」


 肩に止まっているティアに呼び掛ける。


「今回もお前が頼りだ、しかも今回は俺が前衛の真似事できるかも分からねえ」


「お任せください」


 力強く頷いてくれるティア、それに続いて


「一時的に私も貴殿の指揮下に入らせていただいても?」


 渋い声のミノタウロスが殺意全開の雰囲気でそう言ってくる、これで前衛は心配なさそうだ。


「ミノタウロス、じゃあ周りと見分けつかないし呼びにくいから大将って呼んでいいか?」


「好きにお呼び下さい」


 渋い声のミノタウロス、改め大将が一時的に仲間になってくれることになった。一方ウェウルフは……


「大丈夫です、囮位は」

 

 少し言葉がおかしかったが、本人の気持ちを尊重しよう。だが……

  

「ウェアウルフ、三つだけ絶対に守って欲しい命令を言うわ」


「はい?」


 首をかしげるウェアウルフ、俺はそんなこいつの頭の上に手をポンと置く。


「一つ、仲間を信じろ、お前は一人で戦うわけじゃない。二つ、マスターである俺を信じろ、俺はお前を見捨てない、捨て駒にするつもりはない。三つ、お前自身を信じろ、確かにお前はティアより弱かったかもしれない。だが事態をここまで早く解決一歩手前まで持ってこれたのは紛れもなくお前という存在がいたからだ、だからこれからもできる範囲でいいから力を貸してくれ。」

 

 実際問題、俺もこのゲームを始めたばかりだし、ティアもこの世界の知識には乏しそうだったからこういう存在は大きい、後は自信を持って欲しいんだけど



「分かり……ました」


 うーんイマイチ納得できていない様子。


「行くか」


 今は事態を終息させることが先決だ。



※※※


 煙が臭いが強くなる方へ強くなる方へ歩いていく。


 歩くこと数十分、ようやく元凶である場所を見つけた。こんな深い森の中にポツンとある廃教会、いかにも怪しい。


「大将、ウェアウルフ、準備はいいか?」


「私はいつでも」


「……」


「ウェアウルフどうした?」


 反応が無いと思ったら突然ウェアウルフがパタリと倒れる。それと同時にこいつのアイコンの上に麻痺状態を表すアイコンで出てくる。


「おい!」


 うっかり大声を出してしまう。慌てて口を手で覆うが時すでに遅し、廃教会の扉がギギィっと今にも壊れそうな音をたてながら開く。


「悪い……」


 間違いなく戦犯俺です。


「貴殿はウェアウルフ殿の治療を! ティア殿、背中は任せます!」


「はい!」


 謝罪をシカトしたわけじゃないだろうが、大将は動揺ている俺の代わりに素早く指示を出す。


「オオオオオオオオオオオ!!!!」


 持っていた斧をまるで棒きれの様に振り回しながら突撃する大将、ティアはその大将にヒーリングオーラを掛ける体制に入っている。



「マス、ター」


 ウェアウルフの弱々しい声が聞こえる、と同時に何かがぶつかり合う音がする。教会の方を向くと黒いカソックを着た人間が一人立っていた。体格的に男か? 顔はフードのせいで良く見えない。


「騒がしいと思ったら森の動物がちょこまかと……」


 感覚共有のお陰か、かなりの距離があっても相手の声が聞こえる、これは男か? ここから状況を見るに相手は大将の一撃を腕で止めているようだ。 


 そこにすかさずティアがレイ・ブレスを放つが。


「ふん」


 あっさりと弾かれた、あのカソックは魔法防御が高いのか!? ウェアウルフに解毒薬を飲ませながら奴を倒す方法を考える。


「マス、ターこちらに、構わず、他の……」


「黙ってろ!」


「おやおや素晴らしい手駒をお持ちの様なので、そちらの雑魚など不要なのでは?」


 ……見下したような目で見る相手をよそに解毒を続ける、一々癇に障る声だ人の神経逆撫でするのが大好きらしい。


「おっと失礼、吾輩ヴァルガ教七司教(ななしきょう)が一人、ベインでございます」


「んで、その偉そうなベイン様がこんな辺鄙(へんぴ)な場所で何してるんですかねぇ?」

 

 精一杯煽ったつもりだが、こんなんじゃ相手は気にかけないようだ。表情に変化がない。


「それはもちろん、ヴァルガ様に仕える"手駒"を増やすためでございます!」


「へぇ その後どうするの?」


 そう言いながら小声でティアと覚醒の詠唱を始める。最悪ブレスが撃てなくてもあの状態なら爪や牙で何とかできるだろうという考えだ。


「無論、ヴァルガ様の祝福を受けない異教徒の掃除ですよぉ! 欲とは素晴らしい! 欲それはすなわち生物の動力源であり根源、欲!欲!欲! ヴァルガ様が再び降臨されれば全ての生物は我慢なんてくだらない枷から解放されるのでございます!」


 ……ご高説どうも、おかげでこっちは


「ミノタウロス、下がりなさい!」


「承知した!」


 ミノタウロスが大きく下がると、覚醒したティアがその爪でベインに斬りかかる。が


「無駄ですよぉ? 無駄無駄ぁ!」


 直撃したと思ったのに効いていない。どうなってるんだこいつは。幻影か何かの類か?


「では、ここで野垂れ死んでいただきましょう……さぁ、晩御飯ですよ手駒達!」


 そう彼が叫ぶと茂みの影から現れたのは二足歩行の狐、コボルトと呼ばれる魔物やウェアウルフ、それに……ミノタウロスが複数姿を現すが全員立ち方がおかしい、操られてるのか? そいつらは一斉にこちらに襲い掛かってくる。



「原因の調査に出てた村の若い衆です! まさかこんなことになっているとは」


  ティアに殲滅しろって言えば一発だ、だが大将の村の若いミノタウロス達をうっかり巻き込んだら今後の関係に関わる、いや今後関わるかもわからんけどね! クエストの派生フラグ消失とかは嫌だよ!


「ありがとうございましたマスター、そして一つお願いがあります」


麻痺から回復したウェアウルフ、そのお願いとは


「心の枷を打ち破るために力を貸してください」


"ウェアウルフに新たなスキルが追加されました"

 【進化:新たな姿へと変わる】


彼の言葉と共に無機質なシステムメッセージの音声が鳴り響く


「オーケー」


ならば思いっきり背中を押してやろう


『気付けば誰かの嗤い声がする』


「風がなびけばそれは笑い声になる」



「ミノタウロス、すまないが我は主とウェアウルフの護衛に徹する! 下手に攻撃すると爪で軽く弾くだけで殺してしまう!」


「承知した、私は同胞含めて片っ端から殴って目を覚まさせる!」


 感覚共有のお陰かティアと話さなくても意図が通じるのが心強い。そう言った瞬間にはティアはすぐにこちらに来るとその大きな翼で俺達を覆う。


『誰かの影を恐れた』


「足に力を籠めればそれは憧れになる」


 詠唱が終わった瞬間、彼の体が白く輝くと瞬く間に巨大化していく。


 全長は5メートル程か、灰色だった毛並みは真っ白に変わっている。見えている牙はより太く強靭に見える。瞳孔まで赤かった目は今は蒼く澄んだものに変わった。急いでメニューを開いてウェアウルフの状態をサッと確認する。


【ウェアウルフ:狼王(ロボ)

 パッシブスキル:常時発動スキルです

 感覚共有:召喚者とステータスを共有します。

 迅雷:AGIステータスが上大幅昇します。

 狼達の王:近くのウェアウルフ系の魔物を自身専用のファミリアとして従えます。

 先駆け:初撃が必ずクリティカルヒットになります。


 アクティブスキル:任意で使用するスキルです

 スタンチャージ:高確率でスタンさせる突進攻撃です。

 シャウト:3分間パーティーメンバーのAGIを上昇させます。

 ファントムリッパー:自身のAGIを大幅に上昇後、広範囲に攻撃します。

 ブラッディ・イェーガー:自身のAGIを超大幅に上昇後、単体に攻撃します。


 あぁ、そういうことかファミリアは恐らく二段階以上の進化があるものなのか、それで進化がない場合は覚醒っという感じになるのか。


 ……って感覚共有?


「っ!?」


 急に視界が歪む、360度世界が見える感覚が気持ち悪い視界から入ってくる様な感覚だ。情報が多すぎるのか気持ち悪い。


「行くぞオラァ!!」


 今までのたどたどしい態度が打って変わって凄まじい雄叫びを上げながら敵集団に向かって突っ込むロボ



 ロボはこちらの目では追いきれない速度、青い残光を見せながら走り回って敵をボーリングのピンの様に吹っ飛ばしてスタンを付与させていく。これがスタンチャージか。だが……


 これは正直目が回る!!


「っあぁああああああああああ!?」



「主!?」


 ティアの心配する声がする、だがこのままだとこいつはロボを止めにかかってしまう


「止めるな!」


 なんとかティアを静止させる、だが気持ち悪さが消えない。


「まさか……」



 テォアは勘づいてやがる、あぁーもう!! ここは俺の忍耐がキモだ


「ウェア……いや、ロボ!! そのクソうぜぇ野郎を黙らせろ!!」 


 ウェアウルフにも名前つけてやらないとって思ったら自然とその名前が出てきた


「のった!!」


  と言ったっ瞬間、ロボはベインの背後にいた。


「は?」


 あの余裕のあったベインもこれには驚いたようだ。


「雑魚って言った奴に食われて逝っちまえ!!」


 激しい気持ち悪さに襲われながら出た暴言がこれとは、俺も煽りのセンスが無い。


 ロボはそのままベインを一口で噛み、跳びあがると勢いを利用して噛み殺した、これがブラッディ・イェーガーか……当然だが流血とかの演出はない。


「ロボ」


「呼んだか?」


 名前を呼べばすぐに来る。以前とは違ってもうなよなよしてはいない。


「もう前を向けるか?」


「マスターが信じてくれる限り、永遠の一番槍ならぬ一番牙になりましょう」


 さっきまでの荒々しい雰囲気はどこへいったのやら、デカくなっても心は進化前のままか


「進化、覚醒、貴殿のファミリアはホントに無限の可能性を秘めていますな……」


 そう言いながら現れたのは痣だらけになった大将だ、どこかに行ってたかと思えば背後には大将が若い衆と呼んでいたミノタウロスの集団がいた。


「少しこいつらと話しておりました」


 そういうことか、納得。そこに


「いやーすごいね君、こんな短期間にファミリアを二体も可能性の先に届かせるなんて」


 ――――パチパチと拍手しながら喋る中性的な声、これは……上か!!


「初めまして未来の魔王、ボクは抑止力の一人"神楯(しんじゅん)のゼウス"」


 廃教会の上、十字架の上に銀髪の人間が張り付いたような笑顔をしながら立っていた。




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