tame4 ウェアウルフ/ミノタウロス 前半
学校から帰宅後、すぐにideal onlineのアイコンをタップする。
「お疲れ様ですご主人!」
昨日ログアウトした喫茶店の前でアバターが実体化すると、待ってましたと言わんばかりにティアが声をかけてきた。
「俺が何やってるかこっちからでも分かるのか?」
「はい、転移者の皆様が姿を消した場合は違う世界で"ガッコウ"とかとこちらにある仕事とは違う”オシゴト”をしていると伺ってます」
そういう知識はあるのか、まあ、難しいことはさておき。
「昨日行けなかった狩りに行きますかい!」
「はい!」
大通りを見渡すが、幸いにも今日は待ち伏せしているような野次馬や強奪目的のプレイヤーは一人もいない。これなら安心して外に出られそうだ。
※※※
「はぁああああああああああああああ」
「いい運動でしたねぇ……」
一人と一匹、仲良く草原に大の字でひっくり返る、今まで相手していたのは昨日狩る予定だったウェウルフだ。
鋭い灰色の毛並みに、爛々と輝く赤色の瞳。人間の骨くらい容易く噛み砕きそうな凶悪な牙の持ち主で、動きも野生動物らしくかなり俊敏。だが所詮は初めて戦うモブ、決して目で追いきれない相手ではなかった、とにかくそいつとティアとあぁでもないこうでもないと話し合いながら狩り続けた。
その結果……
「……」
この打ちひしがれているウェアウルフが仲間になった、いやオールテイムで召喚用の契約書は滅茶苦茶溜まっているんだけど……しかしさっきから何も喋ってくれない。
「そろそろ何か喋ってくれない?」
俺が苦笑いしながら声をかけると、ウェアウルフはビクッと肩を震わせ、おずおずとこちらを振り返った。
「その……お二方の力になれるんでしょうか……むしろ足手まといな気がして……」
耳をペタンと寝かせ、圧倒的弱者として話すウェアウルフ。
思っていたキャラと180度逆だった。てっきり一匹狼のクール系か無口な戦闘狂かと思っていたら、ただ単に限界までビビり散らかして震えていただけというオチである。
「まぁ力抜けって」
俺が宥めようと背中の毛並みをワシャワシャと撫でてやると、ウェアウルフはヒッと小さく悲鳴を上げて全身をガタガタとマナーモードのように震わせた。
なんでこいつがここまでおびえているのかと言うと……
さっきの狩りの途中、俺が「いちいち一匹ずつ戦うの効率悪くね?」と思いつき、フィールドを駆け回ってウェアウルフを限界まで一箇所にまとめた後に、ティアを覚醒させてカーネージブレスを容赦なくぶっ放したからだ。
そのお陰か俺自身のレベルも一気に上がったし、ティアのレベルもかなり上がった。そして一番の成果はこのウェアウルフだったんだが……
「……」
どうやらティアにぶっ飛ばされた記憶が残っているらしく、ティアとその主である俺に相当な恐怖心を持ってしまったらしい。彼にとって恐怖の権化そのものみたい。
「なぁ悪かったって」
なんとか、彼の機嫌を取ろうと試みるが上手くいかない。どうしたものか……
そこに
「――失礼、そこの御方」
背後から、低く、地響きのような渋い声がかけられた。
驚いて振り返った瞬間、俺の心臓が縮み上がった。
「貴殿が噂のテイマーとお見受けします」
「ほわああああああああああああああああ!?」
二足歩行の牛の見た目、駆け出し冒険者位は簡単に切り裂けそうな鉄製の斧を持った魔物、ミノタウロスが背後にいた。思わず飛びのいてしまうがどうやらこちらと戦う気はないみたいだ。
「わ、悪い……さすがに振り返ったら魔物は予想外で」
「いえ、背後から声をかけた私わたくしに問題があったのでしょう、驚かせてしまって申し訳ない」
……何このめちゃくちゃ礼儀正しいミノタウロス。逆に怖いわ。
「失礼ながら確認させていただきたい。昨日から転移者の間で話題になっている、あの『ドラゴニア』殿で間違いないだろうか?」
「あぁ、間違いないけど」
俺が頷くと、巨躯のミノタウロスは静かにその大きな頭を下げた。
「折り入って、頼みがある。我が群れを……家族を助けていただきたい」
「……分かった。ひとまず話を聞こう」
どうやらバカやってる状況では無いらしい、訳を聞いてみると。
「ここ数日、村のメスや幼子たちが、次々と原因不明の体調不良で倒れておるのだ。病かとも思ったが、一様に『身体が痺れて動かない』と訴えており……。私自身や、村の若いオスたちには特にその兆候は見られないのだが、何故か子供たちばかりが……」
成熟したオスは動けるが他は動けない……ふむ。
「死者出ているのか?」
だが焦りは失敗の元だ、もう少し情報が欲しい
「いえ、今のところは……しかし倒れた者の表情はホントに苦しそうで……見ていられらないのです」
「……おそらく、それ。ここらのエリアに自生している薬草を混ぜて作った『特殊な麻痺薬』ですね。それを何かしらの方法で、村の周辺に撒いている可能性が高いかと」
それまで借りてきた猫のように丸まっていたウェアウルフが、急にスラスラと真面目なトーンで口を開いた。俺とミノタウロスの視線が一斉に集中すると、また黙ろうとするから
「続けてくれ」
俺が優しく促すと、ウェアウルフはペコペコと頭を下げながら、今度は真剣な顔つきで
「マスター達が使うポーションという飲み物は基本、この草原やミノタウロス殿が出てきた森に群生する複数の薬草を混ぜ合わせ、それを水とハチミツで苦味を薄めた物をそう呼んいると聞いております。しかしその調合の際に一種類でも物が足りないと、それはたちまち麻痺薬に変質してしまうのです……」
「そういう事か……」
調合ミス、あるいは意図的な成分の抽出ってことか……?
「そういえば……関係があるかは分かりませぬが、このところ、森一帯が奇妙な霧に覆われることが多くなりましてな」
「いえ、こちらの嗅覚から言わせてもらえば、霧ではありません。――植物を燻いぶした『煙』です」
ミノタウロスが霧と言った瞬間に煙と否定するウェアウルフ、狼の嗅覚を犬並と考えれば……
「クソッタレ……!」
さすが犬科、いや狼。鼻の良さは伊達じゃない。
NPC、プレイヤーかまでは分からない。だが間違いなく人間がこの森で意図的に麻痺薬を調合して盛大に焚いているってことだ。 だが何のために?
「ミノタウロス、ここらで少し隠れて待っていてくれないか? ちょっと町で解毒薬を買ってくる」
「おお……! 恩に着る、ドラゴニア殿。どうかよろしくお願いします。」
深く頭を下げるミノタウロスと一度別れ、俺はティアとウェアウルフを連れて大急ぎで始まりの町へと引き返した。それとルーさんに一つ質問しておこう……




