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idealonline~白き龍と魔王~  作者: 十月
テイマー始動
13/26

tame10 理由

「危ない危ない、陽光の娘が大剣だったら死んでたよ~」


 頭を抱えて激しく転がったサキュバスが、大袈裟な動作で身を震わせながら起き上がる。

最初は敵対モンスターの強襲かと思ったが、彼女の頭上に浮かぶネームアイコンの色は、クリアな『青』――つまり、こちらに敵意のない『中立NPC』を示していた。


 太腿のあたりまで伸びた艶やかな紫のロングヘア。ふざけた言動とは裏腹に、鋭い知性を感じさせるクールでキリッとした顔立ち。衣服は、どこかの王族が身に纏うような、妖艶かつ上品な深紫のドレスだ。そして何より目を引くのが、背中から大きく生え揃う悪魔の羽。

……というか、さっきの「なまちち」の感触は流石に冗談か何かだよね? 爪か何かを背中に当てただけだよね?


「ほらご主人、シャキッとしてください! すぐに治療します!」


 混乱する俺の傍らにティアが駆け寄り、『ヒーリングオーラ』を展開してくれた。緑色の光の粒子が身体を包み、ルーさんの鞘に削り取られた俺のHPが急速に回復していく。その緑の光の向こう側で、いまだにわざとらしく胸元を強調して見せてくるサキュバスを、俺は冷ややかな目で睨みつけた。


「でだ、そのサキュバスがなんの用だよ?」


 ティアが俺にヒーリングオーラを掛けてHPが回復していく、それをを眺めながらサキュバスに問いかける。


「え~? サキュバスと健全な男の子が出会ってしまった以上、何もないわけが無いでしょ~? ほら、これからアタシと、もっとトロトロでエッチなこと――」


「ロボ」


「真面目に答えろオラァ!」


 おふざけが度を越し始めたサキュバスに対し、俺はノータイムでロボに攻撃命令(ツッコミ)を出した。

 意図を完璧に察したロボが、その自慢の太い前脚を全力で振り抜き、サキュバスの脳天を文字通りバチコーン! と叩く。


「いたーーいっ!? ちょっ、ちょっと何するのよバカ狼!!」


 サキュバスの頭上に表示されているHPバーが一瞬で赤色に染まり、なんと残り『1割』まで消し飛んだ。

……あぶねぇ。進化してAGIとSTRが大幅強化されたロボのツッコミは、一歩間違えれば中立NPCをそのまま消滅させかねない威力だ。流石にこのままでは、肝心の話を聞く前にこいつが死んでしまう。


「まぁとりあえず食っとけ」


 とりあえずHP回復アイテムであるグミをウィンドウを操作して取り出しオブジェクト化、それを親指と人差し指で渡そうとしたら……


「あむ、ちゅるっ……じゅるるっ」


 あろうことか、そのサキュバスはグミだけでなく、俺の指ごと深々と口内に咥え込み、いやらしい音を立てて激しく吸い上げてきたのだ。

あまりの生々しいヌルリとした感触に、悲鳴に近い変な声を上げながら慌てて指を引き抜く。指先には、これでもかとばかりに糸を引いた唾液のグラフィックが残っていた。

心臓がバクバクと暴れる。こいつ、マジで何がしたいんだ。横を見ると、ルーさんが右手で派手に頭を押さえて、心底呆れ果てた顔で天井を仰いでいた。

……ダメだ。このままこの距離感でダラダラ喋っていても、一切話が進行しない。


俺は一度深く呼吸をし、思考を無理やり切り替えた。ここは、少し賭けに出るか。



「ロボ、姉御。お前たちは、俺たちが入ってきた方の『洞窟の出入り口』に立って警戒を。――ティア、ルーさんは、これから俺たちが進む側の『奥の通路』の前に立っていて欲しいんだけど……いいですか?」


「了解ですご主人」

 

ロボと姉御は無言で力強く頷くと、指示通りに背後の退路を塞ぐように移動した。ティアとルーさんは一瞬、俺が自分を孤立させるような陣形を取ったことに少し訝しげな表情を見せたが、俺の真剣な目を見て、すぐに奥の通路へと移動してくれた。


これで、この広間の中央には、俺とサキュバスの二人だけ。


「さってと……これでもう邪魔者はいないぞ。」


 ここからが勝負だ、もしこれが何かの特殊イベントなら、周囲のファミリアや他プレイヤーの干渉を排除して「一対一」の会話を進めることで、隠しクエストが発生するはず。仮にこいつが新手の罠だったとしても、あの位置に全員を配置しておけば、ファミリアやルーさんが初撃に巻き込まれる可能性は極めて低い。

 広間に静寂が落ちる。すると、


「――ふーん……どうしてこうして欲しいと思ったことがバレたかな?」


 さっきまでの、おちゃらけたバカっぽいお色気トーンが、嘘のように消え去った。

サキュバスは冷徹なほどに真面目なトーンで、くすりと妖しく微笑む。やっぱりな。あのあからさまなバカキャラの演技、あまりにも露骨すぎて逆に違和感しかなかったのだ。


「説明しなきゃいけないか?それより本題を話せ」


 と返すと


「……最近一族全員が同じ夢を見るの、長い銀髪をした、男の子とも女の子ともつかない不思議な人間に、冷たい声でこう告げられる夢よ。『――邪神に付くか、魔王に付くか。選択の時は近い』ってね」



 ……その特徴、間違いない。

先日、俺のスキルの不具合を修正したあの抑止力NPC――神楯のゼウスだ。


「言われた邪神、っていうのはヴァルガだと思う。そして魔王は……最近色んなところで噂に聞く白い龍を従えた貴方の事だと思ったの」


 魔王、なんて柄じゃないんだけどなぁ。


「決定打は、アタシがこのIDで潜んで見ていた、貴方と貴方のファミリアたちの雰囲気。互いに種族を超えて信頼し合って、笑い合って……正直、見ていて心の底から羨ましかったわ」


 サキュバスはそう言うと、静かに歩み寄り、今度はふざけたエロ目的ではなく、どこか縋るような切実な動作で俺の身体にそっと抱き着いてきた。


「アタシは一族代表として貴方に交渉しに来た、私たちと契約してここから連れ出して欲しい」


 合点は言った、だが疑問が残ることが少しある


「いくつか質問していいか?」


「アタシが答えられる範囲でなら、何でも」


「まずは俺を魔王と呼ぶ理由だ」


 ここが本当に気になる、俺のファミリアは確かに強いのが結構いるが俺自身は本当にそこら辺の中間層に燻るバッファーがいいレベルだ


「既にこれだけ大勢の強力な魔物を『家族』として従えて、手懐けているその現状を見てたら、そう呼びたくなっちゃったの。……じゃあ、ダメ?」


 俺の胸に顔を埋めているため、彼女がどんな表情をしているのかは分からない。だが、俺を抱きしめる彼女の両腕に、ギュッと強い力が籠もり始めるのを感じた。どうやら本気らしい。


「二つ目、ルーさんのメイン武器が何故双剣と大剣と知っている?」


「なんでか分からないけど"陽光の娘"って言われているプレイヤーの情報を私達は知識として持っているの、これだけは上手く説明できないの……」


 なるほど。ここがシステムに生成されたIDインスタンスダンジョンだとすれば、ルーさんが過去にここを何度も攻略した際の戦闘ログやデータが、ここのNPC側の知識として共有・同期されている……と考えるのがネトゲ的には自然か。


「……最後だ、なぜあんな回りくどいことをした」


 話せばこれだけしっかり会話ができる相手。それなのに、最初のあの「なまちちクイズ」や、俺の指をエロく吸い上げてきた異常な行動。真面目な交渉がしたいなら、最初からそう言えばよかったはずだ。


「……真面目なサキュバス、なんてキャラじゃないでしょ? サキュバスは常に男襲う事しか考えてないよう魔物じゃないとね?」


 その答えに思わず噴き出した。


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