tame11 実力差
サキュバスト会った場所から進むこと数分、俺は新しいクエストのテキストとにらめっこをしていた。
【サキュバスからの依頼
洞窟内に蔓延る真の悪を暴け!
】
結局、クエストリストに追加されたのは、この抽象的なテキストだけだった。
一応、隠しイベント(?)が正式に発生したのだから『大きな進歩』と取るべきか、それともこれだけの情報じゃ何も分からないと『足踏み』と取るべきか……。
これを大きな進歩と取るか、これだけだったと取るか……
「私、今まで何度もここを周回して攻略してきたけど、こんなクエストが発生したのなんて本当に初めて。ニア君、やっぱり何か持ってるね」
ルーさんは大分前向きに捉えているようだ、これは俺も前向きに考えよう……
「あ、そうだ。ニア君、私もちょっとここからスタイル変えるね」
「は? あ、はい?」
俺が返事をするのとほぼ同時に、ルーさんは歩きながら手慣れたモーションで空間のウィンドウを弄り、ジョブチェンジを実行した。このゲーム、戦闘状態に入ってさえいなければ、ダンジョン内だろうがいつでも瞬時にジョブチェンジができる仕様っぽいな。
光の演出とともに、彼女の装備が切り替わる。その両手に握られたのは――二振りの、眩い輝きを放つ『双剣』だった。
「本気出すんすか?」
と聞くと
「ただ周回するだけならさっきまでの刀のジョブでも良かったけど、初めてみることが起こるなら最初から全力で行こうかなーって」
なるほど、確かに慣れていないジョブで遊ぶより、普段から使い倒しているメインジョブの方が100%の戦闘力を出せるのは間違いない。
……というか、前々からちょっと気になってたんだけど、普段はなんで刀を使ってるんだろう。周回用の縛りプレイか何かだろうか。今度タイミングを見て聞いてみよう。
……前々から思ってたけどなんで刀使ってるんだろうか、今度聞いてみよう。
「マスター。12時の方向、通路の先から敵の気配。……数は三つ程、です」
そんなことを考えてたら少し前を歩いていたロボから敵がいるという報告を受ける、数的に考えればロボとルーさんの二人でサクッと……
「天の運命に逆らって見せよう」
冷徹なルーさんの声が洞窟内に響き渡る。
直後、キィン!! という、硬質な剣が相手の肉体にヒットしたような鋭い金属音が遠くで聞こえた。
……え? と思った瞬間には、ついさっきまで俺のすぐ隣を歩いていたはずの、ルーさんの姿が綺麗さっぱり消え失せていた。
「「「「えっ……」」」」
俺、ティア、ロボ、姉御の全員の声が完璧にハモった。
全員が一歩も動けないまま、完全に思考が停止している。
待て待て待て、今の移動速度は何だ!? 速すぎる!! 初動すら見えなかったぞ!!
「ボ、ボサっとしてるとあの娘に置いて行かれちゃうわよ!」
サキュバスも表情は平然としているが、今まで聞いたことのない声量でそんなことを言う時点でこいつも頭が状況についていけてないと思う。
「っ、ロボは先行! 姉御はロボの背中に飛び乗って一緒に突っ込め! 必要ならそのまま二人のコンビでルーさんの援護に回れ! サキュバスとティアは俺と一緒に、背後を警戒しつつダッシュで進む!!」
パニックになりかける頭を無理やりフル回転させ、怒鳴るように指示を出す。
「ハイ!」
「承知!」
「応!」
「了解よ~」
各々承知してくれたようだ、ロボは姉御が背中に飛び乗ったことを確認すると全速力でルーさんを追いかけ始めてくれる。
こっちは……って
「偏見だけどサキュバスって魔法主体だよな……」
咄嗟に指示して後悔、前衛いないや……。
「アタシ前衛する?」
妖艶な笑みを浮かべたサキュバスが自身の着ているドレスのスカート部分を太腿辺りからビリビリと破いて見せたのは鞭だった、
「……あ、ああ、すまん。最悪の場合の前衛、頼むわ」
「りょ~かいっ」
と今度はニッコリ笑顔で承知してくれる、彼女の表情一つ一つに心臓がドキドキするのは思春期だからだろう、恋した訳ではない……メイビー……
※※※
それから、俺たちは息を切らせて必死にダンジョンの通路を全力疾走した。
だが、おかしい。どれだけ急いで走っても、ルーさんどころか、先行したロボや姉御の姿にすら一向に追いつく気配がない。一体どれだけの距離を引き離されているんだ。
「サキュバス……! ここ、空間が歪んでるとか、幻覚を見せる魔法とかはかかってないよな?」
「アタシの感覚だと、そんな形跡は一切無いはずよぉ~」
ただのストレートな一本道なのに、前方の様子が全く視認できない。最前線プレイヤーのトップギアの移動速度は、ここまで常軌を逸しているのか。
「ご主人、待ってください! ――この先、少し開けた大部屋から、尋常じゃない数の魔物の気配がします!」
……そこにいるかもしれない
「ロボ達の気配は!?」
「分かりません……! 気配が薄いわけではないのですが、それを完全に覆い隠すほどの、圧倒的な『敵の気配』に部屋全体が満たされています!」
最悪のケースが頭をよぎる。いくらルーさんが強くても、数の暴力で分断され、ロボたちが挟撃に遭っていればマズい。
「戦闘準備、突入するぞ!」
「ハイ!」
「了解~」
サキュバスは鞭を持ち、ティアも飛んでいる高度を上げる。
だが目の前に広がった光景は……
「ぜぇ……ぜぇ」
「はぁ……はぁ……」
肩を激しく上下させ、体力を激しく消耗して床にへばりついている、ボロボロのロボと姉御の姿。
「……」
それを守るように立つルーさんと、大量の二足歩行のトカゲの様な魔物、リザードマンの姿だった。
そして、そんなへばった二匹を背後に庇うようにして、双剣を構えて静かに立ち尽くすルーさん。
彼女たちの周囲を完全に包囲していたのは、視界を埋め尽くすほどの質量――地響きを立てて唸りを上げる、二足歩行の巨大なトカゲの魔物『リザードマン』の、言葉通り圧倒的な大軍勢だった。




