9話
その日のロングホームルーム、担任の先生は教壇に立つと「それでは授業を始める。今日はクラスマッチが終わったから席替えをするぞ」
教室が賛否両論の声で騒がしくなる。俺は鈴原さんの隣が良いから、反対! と心の中で叫んでいた。
「静かにしろ。俺が席順の決め方について説明するから、その通り動く様に、まず、目が悪くて前の席を希望する人は前に出て来てくれ。先にクジ引きを行う」
「ほっ……」
俺も鈴原さんも眼鏡はしていない。ここで数人、決まってくれるだけで助かる。
「──はい、終わったな。次は女子だけを決めるぞ。いまの席順の順番で引きに来てくれ」
次々と女子がクジを引いていき、席を決めていく──鈴原さんは窓際の席の前から二番目だった。何としてでも、その隣を引きたい!
「──よし。次は男子だ。同じ様にクジを引いてくれ」
数人の男子生徒は意気込みを感じる声を発しながら教壇へと向かっていく。きっと鈴原さんの隣を狙っている奴はいるはずだ。負けられない。
「……次は俺だな」
幸いなことに、まだ鈴原さんの隣はまだ空いている。鈴原さんがどんな表情で俺を見ているのか、気になる所ではあるけど……俺は平静を装って、余所見をせずに教壇へと向かう──そして引いたのは……廊下側の二番目の席だった。
「なんてこった……」
鈴原さんとは反対側の席でショックを受けながらも、引いた席に向かう──俺って本当にクジ運が悪い……と、嘆きながら席に座ろうとした時! タイムループが起こる!
「──よし。次は男子だ。同じ様にクジを引いてくれ」
先生がそう言って、最初から男子のクジ引きが始まる──俺は……俺は……7回タイムループを繰り返した。流石に飽きてきたので次で決めたい所! そう思ってクジを引くと──
やっとの思いで目当ての席を引き当てる事が出来て「ヤッタ……当たった!」と、思わず声を出してしまう。
……ハッと冷静になると、クラスメイト達が冷ややかな目で見られている気がして、目線を下げながら直ぐに席へと移動した。あぁ……恥ずかしい。でも、これでしばらく鈴原さんの隣で過ごせる。
「──ねぇ」と、珍しく鈴原さんから話しかけられ、俺は横に顔を向ける。
「なに?」
「何でそんなに、そこの席が良かったの?」
「え……?」
「声を出して喜んでいたじゃない? そんなに嬉しかったって事でしょ?」
「あ、あぁ……何でって……」
鈴原さんの隣が良かったからに決まっている。それを聞き出すかのような質問を自らしてくるなんて、何を考えているんだ?
「たまたま……次は窓際が良いと思っていたんだよ」
「ふーん……そう。たまたまねぇ……」
鈴原さんは無表情でそう言って、顔を正面に向ける。これってもしかして……朝、弄った事の仕返しか? そう考えると、小悪魔の様な表情にも見えてきた。
「鈴原さんめ……」
よくよく考えてみると、タイムループが起こったって事は、鈴原さんもこの結果になる事を望んだことになる。って、事は……進展していない様で、してるって事だよな? 嬉しい反面、何だか落ち着かない。だって……その先がどうなってしまうか分からないから。
※※※
席替えから数日が経過して、期末テスト前へと突入する。中間テストはどうせ頑張っても……って気持ちがあったから、散々だった。でも今回は頑張ろうと思って、いま自分の席で勉強している所だ。
「貴幸君、今度の日曜日、一緒に勉強しようぜ」
「うん、良いよ」
自分が変われば人の反応も変わっていく……俺の周りには少しずつ人が増えていた。その一人が明るく社交的な性格をした山本君だ。
「テスト終わったら、カラオケしようぜ」
「いいね」
「じゃあ、女子も誘っちゃう!?」
「女子って誰?」
「適当に声を掛けてみるよ。楽しみにしてくれ、じゃあ!」と山本君は言って、慌ただしく自分の席の方へと帰っていく。
ふと視線を感じた俺は、隣に視線を向ける。すると鈴原さんが不機嫌そうに頬杖をついて、こちらを見ていた。
「ごめん、騒がしかったね」
「別に……それより佐藤君、最近、楽しそうだね」
「!」
「……なに? 鳩が豆鉄砲を食ったよう顔して」
「あ……いや、名前で呼ばれたのが初めてだったから……」
「そうだっけ? 別に名前で呼んだっていいじゃない」
「あ、うん。そうだね」
「それより、テスト終わった後に女子とカラオケ行くんだって? 良かったじゃない」
「あぁ、そうなんだよ。鈴原さんも一緒にどう?」
俺がそう言うと、鈴原さんはプイっと顔を背ける。そして「行かない」と、あっさり断って来た。
これは失敗だったか? ……と、様子を見ていると案の定、景色が途切れる。山本君との会話から戻ってしまった。俺は途中まで同じ回答をして話を進める。
「それより、テスト終わった後に女子とカラオケ行くんだって? 良かったじゃない」
フラグが立って数秒後にタイムループするから、会話の直前がダメだったかどうかは分からない。だけど、きっとこの後の会話がマズかったんだ。
「友達とカラオケに行くのは良いけど、別に女子は山本君や他の男友達目当てだと思うよ? 俺には関係ないと思うけど……」
ドヤッ! と、様子を見ていると、鈴原さんはさっきと同じ様にプイっと顔を背ける。そして「あ、そう」と言っただけだった。
でも……よし! タイムループは来ない! 何回もタイムループを繰り返してきたから、何となく鈴原さんの性格も含めて掴めてきたぞ。この調子でいきたい所だな。




