8話
──その後、いくつかクラスメイトの試合が行われ、また俺達の出番が来る。今度はさっきと違うクラスとの対決で、女子のペア。俺達が練習していた時に、よく見かけた二人で、動きを見るだけで経験者の中でも上手いと分かる二人だった。
「──時間になりました。それでは始めて下さい」
「お願いします!」
お互い挨拶を交わし、試合が始まる。こちらにはタイムループがあるけれど、対戦相手が悪すぎる。果たして勝てるだろうか?
「──鈴原さん、俺が前に出る」
格上相手とはいえ、少しのラリーは続く……でも、相手は順調にポイントを重ねていった。今は8対0で負けている。巻き返すのは難しい状態だ。
「後ろ下がったよ。前は任せた」
「OK」
相手は互いの動きを見ながら良く声を掛け合っている。一方、俺達はバラバラで、正直、後ろに下がって良いのかすら分からない。そう思った時──。
「下がらないで!」と、鈴原さんの声がする。俺は指示通りネット際で待機した。
シャトルが俺の頭上を越えていき……後ろへと飛んでいく。それを鈴原さんはスマッシュで返した。でも相手は軽々とスマッシュを返球し、俺達側のネットギリギリに落としてくる。
「俺が取る!」と、今度は俺が声を掛けて……打ち上げた。だけど俺の返球はネットを越えたものの、手首の力が足りなくて、中途半端な位置で落ちていく。
相手は待っていましたと言わんばかりにスマッシュの構えをする。俺は前じゃ取れないと思ったから、後ろに下がろうとした。
「任せて!」
「分かった!」
またもや鈴原さんの声が後ろから聞こえ、俺はその場に留まる。案の定、相手はスマッシュを叩きこんできた──が、鈴原さんは信じた通りスマッシュを返球する。しかも、その返球はネットに当たって、相手コートへと落ちた。
「イン。サービスオーバー、ワン・エイト」
「ヤッタ!」
苦労して取った一点で思わず声を出してしまう。その勢いで後ろを振り向いた──が、鈴原さんは一緒に喜ぶどころか、プイっと顔を背けてしまった。そうだよな……まだ試合は続いているんだ。集中しないと!
「──イン。テン・ワンで5組の勝利です」
「ありがとうございました!」
挨拶を交わして、俺達はコートの外に出る。結局、ポイントを取れたのは鈴原さんのネットインだけだった。鈴原さん、悔しいだろうな。顔を見るまでもない。
そう思ってタイムループを待ち構えていると「……あれ? 全く来る気配がない」
おかしいなと思って、少し離れた場所から鈴原さんに視線を向ける……鈴原さんは満足しているのが直ぐに分かるぐらい、清々しい笑顔を浮かべていた。
「……ふふ、そういう事か」
きっと鈴原さんは、勝ち負けなんて重視していなかったんだ。大事なのは内容……私はちゃんとコミュニケーションが取れて、格上相手に1点取れるほど努力したんだ! ってところをクラスメイトに見せつけたかったんだろう。
「本当……感心するほど負けん気が強いな」
俺は今までで一番可愛いと思える鈴原さんの顔を目に焼き付けて、余計な事はせずにスッとその場を離れた。
※※※
それから数日経過するが、クラスマッチでペアになったからといって、鈴原さんとの仲が変わる事はなかった。だけど……何だか最近、目が合ったり、廊下ですれ違うのが増えてきたりと、たまたまが増えてきた気がする。
そんなことを考えながら、いつもよりのんびり一人で通学していると、「何のんびり歩いているの? 邪魔」
後ろから鈴原さんの声が聞こえ、俺は後ろを振り向く。
「鈴原さん、おはよう。あれ? 鈴原さん、いつもより遅くない? 今日はどうしたの?」
「…………寝坊」
「珍しいね」
「……」
俺は鈴原さんが黙り込んだので、先に行きたいのかと思い、道を譲る──でも、困ったような表情? を浮かべながら珍しく先に行くことは無かった。
「……どうしたの? 先に行かないの?」
「行くわよ! 急かさないでよ」
「……もしかして一緒に登校するために、合わせてくれたの?」
「バッ、バッカじゃない! たまたまに決まってるじゃない、調子に乗らないでよ!」
鈴原さんは、そう声を荒げるとスタスタといつもの様に俺を置き去りにして行ってしまった。
「えっと……」
もしかして動揺してた? 進展が無いから、たまには弄ってみたらどうかと思って、冗談で言っただけなのに……念のためタイムループをしても良い様に次の手を考えてみた……が、無駄となった。




