10話
テストが終わった、その日の昼休み。俺はジュースを買いに廊下に出ていた。
「テスト終わったし、放課後はカラオケ大会ね」
「楽しみだね~。そういえば鈴原さんも誘ったんだけど、予想通り来ないって」
「やっぱりね、アイドル目指すなんて言ってるくせに、歌が下手くそなんじゃない?」
「キャハハハ、有り得る~」
目の前を歩くクラスメイトの女子達の会話を聞いて、自分の事の様に腹が立つ。俺は一言いってやろうかと、足を一歩踏み出した……が、誰かに肩を掴まれる。誰だ!? と、思った俺は後ろを振り返った。
「佐藤君、こっち来て」
「鈴原さん……分かった」
鈴原さんはさっきの会話を聞いていたのだろう。眉毛を吊り上げ、凄く怒った表情を浮かべていた……人気のない階段の踊り場に着くと、俺達は向き合って立ち止まる。
「……どうしたの?」
「佐藤君、さっき何をしようとしたの?」
「何を? あぁ、トイレに行こうと思って走ろうとした」
「嘘言わないで! さっき女子がしていた会話、私も聞いてたんだから!」
「そう……だったら正直に言う。あいつ等に何か言ってやろうとした」
「やっぱり……あなた自分の立場、分かってるの!?」
俺の立場……? 少し無言で考えてみたけど「──分からない」
「でしょうね! 私が受けた屈辱は自分で晴らす! だから余計な事をしないで!」
「……そっか、そうだよね。うん、分かったよ」
鈴原さんは俺が返事をすると、無言でプイっと背を向け、その場を離れていった。あんなに怒った鈴原さんを見たのは久しぶりだ。でも…………タイムループは起こらない。きっと何もしないが正解なのだろう。モヤモヤするけど、俺はジュースを買わずに教室に戻る事にした。
「なぁ、小林。変な事を聞くが俺の立場って何だろうな?」と、俺は自分の席に座って弁当を食べていた小林に話しかけた。
「お前の立場? スクールカーストってやつの事?」
「あ……あぁ……」
「う~ん……正直に言って、下の上って所じゃないか? まぁ、最初は俺と同じ下の下だったんだ。最近のお前は順位が上がった方だと思うよ。あはははは」
「……そういう事か」
俺、自分じゃ気付かなかったけど少し人気が出て来たのか。だから鈴原さんは、俺を守るために余計な事をするなって言いたかったのかもしれない。
「何が?」
「いや、何でもない」
教室に戻るまでカッカしていて、こんな事ならカラオケを断ろうと思っていた。だけど、せっかく鈴原さんが守ってくれたんだ。このまま無理せずに、嫌な事は受け流しながら関係を続けよう。
「それより貴幸、昨日の夜にやってたアニメ観た?」
「アニメ? いや、ゲームしていて観てない」
「なんだ、面白かったのに観てないのか」
「どんなアニメだったんだ?」
「簡単に言うと、恋愛要素のあるタイムループもの」
「へぇー……」
「タイムループ出来る回数が三回までって決まっていて、ハラハラドキドキで観れたぜ」
「そうなんだ。今度、観てみるかな」
「そうしなよ」
──回数制限かぁ……俺は何回もタイムループしてるから、意識して来なかったけど、そんなの無い……よな? 最近、タイムループに慣れてきたから、深く考えてこなかったけど、まだ分からない事があったりして……。
例えば、さっきみたいに鈴原さんを怒らせて、修復不可能になっていたら、どうなるのか? とか……そう考えると急に不安になって来たぞ。
※※※
放課後になり、俺達は直ぐにカラオケ屋に向かった。人数は6人で男女3人ずつ、俺以外は山本君を含みスクールカースト上位の面々だ。だから、小林は残念ながらここには居ない。果たして俺はついていけるだろうか?
「俺から先に入れて良い?」
「良いよ。時間ないし、決まっている人からガンガン入れていこう!」
「OK」
さすがはスクールカースト上位、何の打ち合わせもなく、どんどん話が進んでいく。座り順は……一番端の出入り口側が俺、その隣が女子、更に隣が山本君と、男女交互に座っている。話した事もない女子が隣に居るだけで落ち着かないのに、この女子は……。
「えっと……佐藤君……だっけ?」
「はい」
隣の女子が突然、話し掛けてきて、俺は素っ気なく返事をする。
「佐藤君は歌わないの?」
「歌えと言われれば歌いますけど、皆の邪魔してまで歌うつもりはないはありません」
「ふふ、私もそんな感じ。完全、付き合い。だからさ、少し話をしようよ」
「……」
「皆が歌ってるから、会話聞こえないでしょ?」
隣の女子はそう言って、心の距離を詰めるかのように、腕が触れそうなぐらい近づいてくる。その時、フワッと甘い香りが漂ってきた。可愛い顔に甘い香り……他の男子なら誘惑されそうだけど、俺は騙されないぞ。
「別に、俺は聞こえますけど」
「私が聞こえないの。それより、佐藤君。クラスマッチの時に鈴原さんとペアになっていたけど、仲が良いの?」
「…………仲が良いとか、そんなんじゃないけど……」
「あはははは、だよねぇ! 鈴原さんなんかと仲良くなれる訳ないよねぇ」
散々、鈴原さんの陰口を言ってきて、ここでも下げるのか。嫌な事は受け流しながら関係を続けようと思っていたけど……汗が滲み出るほど怒りが湧いてきて、抑えきれない。鈴原さんは自分で受けた屈辱は自分で晴らすと言っていた。じゃあ、せめて……。
「そんな事ないよ。知りもしない……いや、相手のことを知ろうともしない人より、鈴原さんの方がよっぽど好感持てると思うけどね」
俺はハッキリとそう言って、存在感なさ過ぎと言われた屈辱を晴らす。隣の女子は一瞬、キョトンとした表情を浮かべたが……直ぐに何のことを言っているのか分かった様で、俺を睨みつけてくる。そしてスッと立ち上がった。
「……トイレ行ってくる」
「あ! じゃあ私も」
隣に居た女子と一緒になって陰口を言っていた女子は、部屋から出て行った。山本君は俺達のやり取りを聞いていたのか、歌いながらスッと俺の隣へと移動して、俺の背中を優しくトントンと叩いてくれる。それから山本君は──終わりまでずっと、俺の隣に居てくれた。分かってくれる人は居る……それを実感する日になった。




