11話
──次の日の朝。俺はいつもの様に一人で学校に向かう。すると後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。鈴原さんかもしれない。俺は邪魔と言われる前に少し横に避け、後ろを振り返って立ち止まった。予想通り、駆け寄ってきているのは鈴原さんだった。
「鈴原さん、おはよう」
「──はぁ……はぁ……佐藤君!」
「はい!」
鈴原さんが勢いよく俺の名前を呼ぶもんだから、ビックリして背筋がピンっとしてしまう。しかも、なんだろう? 鈴原さんの目が真剣で何だか怖い。
「噂聞いた!?」
「噂? 何の噂?」
「……私の噂……」
「鈴原さんの? いや、聞いてないよ」
「ならいい……」
鈴原さんはそう言って、俺を置いて走って行く──鈴原さんの噂ねぇ……咄嗟に聞いてないって言ったけど、可愛いとか、性格が……とか色々聞いたことはある。でも、どの噂の事だ? あの様子だと最近の様だけど……そう考えていると、景色が途切れる。
「え?」
今の会話に何かいけない言動があったか? 俺は何故か、小林が昼飯を食べている所まで戻されていた……今までの経験上、未来に行くことは無い。だからきっとこれは過去だ。
「なぁ、小林。さっき言ってたアニメ、観るからな」
「あ? あぁ、うん。観ると良いよ」
当たりだ。これは昨日の昼休み……珍しいな、こんなに戻されることは今まで無かった。ここで小林に何か聞けって事なのか? だとすると考えられるのは……。
俺は周りに鈴原さんが居ない事を確認すると「なぁ、小林。最近、鈴原さんの噂って聞いたことある?」って聞いてみた。すると小林は眉を顰める。
「あ、あぁ…………鈴原さんがお前の事を好きなんじゃないかって噂を聞いたよ。あ、でも、真に受けない方が良いと思うぞ。ほら、鈴原さんってあぁいう性格だし、色々と……」
「そっかぁ……分かった。忠告ありがとう」
「あぁ」
なるほど、現実世界で小林が言っていたのは、ここに繋がるのか──次の日の朝、俺は鈴原さんと会って、途中まで会話を進めた。
「……私の噂……」
「聞いたよ」
「! 何で聞いちゃうのよ……そんなの忘れちゃって!」
鈴原さんはそれだけ言って駆けていく……俺は黙って見送っていた。タイムループは──来ない、正解だ。って事はだ。鈴原さんは俺のことを……いや、まだ分からないか。仮にそうだったとしても……俺はまだこうして楽しい日常を過ごしたい。
「もう少し様子を見てみるか」
──鈴原さんが噂の事を聞いて来た、その日の放課後。俺はジュースを買ってから帰ろうと、自動販売機の中庭へと向かっていた。
「鈴原さん、俺と……付き合ってください」
「……」
そこで俺は、鈴原さんがクラスの男子に告白されているのを目撃してしまう。
「嘘だろ……」
本当に偶然、目撃してしまっただけだから、別に俺が悪い訳ではない。でも、このままここに居るのはマズいだろ。そう思った俺は、ジュースを諦めて、直ぐにその場を離れた。
「──モヤモヤ……いや、ドキドキ? してる。」
俺は一人で帰りながら、さっきの事を思い出して、そう呟いた。この気持ちが不安なのか、嫉妬なのか、それとも別の感情なのか、複雑すぎてよく分からない…………だけど、
焦っているのだけは分かった。
※※※
──それから数日が経過する。俺はその数日間、何も出来ずにいつも通りの日常を過ごしていた。タイムループは来ていない。これが正解だから正解だと思っていた──だけど、通学途中で景色が途切れる。そして戻されたのは──。
「鈴原さんが告白されたところだ……」
ここで俺はどうしろと? 告白を妨害すれば良いのか? いや、ここは慎重に考えろ……これは会話をしくじるとかのレベルじゃない。恋愛はちょっとしたことで関係が壊れる事だって十分あり得る。そうなったら──俺は一先ず、この場を離れる事を決めた。
「……多分、これが正解だ。だって数日間はタイムループが起きなかったんだから……でもこの先、どうしろと?」
…………いや、どうしろじゃないよな。1つだけ、気になってはいたけど怖くて逃げていたことがある。それは告白の結果を聞く事……それをしなかったからタイムループが起きたんじゃないか?
「数日の間、あの男子が鈴原さんと付き合ったという噂は全く聞かなかった。だけど知らなかっただけで、付き合っていたなんて話はあったりする。だから、もしかしたら……」
俺は首を振って、嫌な想像を掻き消すと、とにかく調べてみる事を決心した。それから──俺は自分が出来る範囲で情報集をした。でも有力な情報は手に入らなかった。
「……こうなったら、直接聞くしかない!」
そう思った俺は朝、鈴原さんと話そうと、いつも通り一人で学校に向かっていた。この日の、この時間、俺は鈴原に挨拶をした。だからきっと──。
「邪魔、退いてくれる?」
「鈴原さん、おはよう」
記憶通り鈴原さんはやって来て、俺は挨拶を交わす。この後は何も言わなかったけど、今日は──。
「鈴原さん、あのさ……」
「なに?」
そこまでは言えた…………でも、臆病者の俺は、あと一歩が踏み出せない。
「なに? 何か聞きたい事があるんじゃないの?」
「えっと……ごめん、また今度にする」
「…………あ、そう」
鈴原さんが、スタスタと歩いていく所を見送っている…………と、タイムループが起こる。俺は鈴原さんに邪魔と言われて振り返っていた。
「鈴原さん、おはよう」と、俺は挨拶すると、ポケットから携帯を取り出し、日時を確認する。
……今日の朝で間違いない。という事は、間違えたのは答えを先延ばしにした事だ。ここまで分かれば後は勇気を振り絞って聞くしかない。
俺は深呼吸をしてから「……鈴原さん、あのさ」
「なに?」
「俺、謝らなきゃいけない事があって……クラスの男子に鈴原さんが告白されているところを目撃してしまったんだ」
「あ、そう。私いま余裕が無いの。誰であろうと結果は同じだから、安心して」
「良かったぁ……」
鈴原さんは俺が安堵している間にスタスタと歩き出す。俺はそれを見送りながら、ふと疑問に思った。
「……安心して?」
それは見てしまった事に対してだろうか? それとも鈴原さん、俺の気持ちに気付いて──疑問は残ったものの、これで告白問題は解決したようで、タイムループが起こった日が過ぎても、タイムループが起こる事は無かった。




