6話
数日後。俺は昼休みにジュースを買おうと廊下を歩いていた。すると、後ろから女子生徒の会話が聞こえてくる。
「ねぇ、知ってる? 鈴原さんと、えっと……名前なんだっけ? 忘れたけど、同じクラスの男子、放課後にバドミントンの練習してるらしいよ」
「名前を忘れるなんて、ヒドッ! それともわざと?」
「わざとじゃないよ。だってあの男子、存在感なさすぎじゃない?」
「キャハハハハ、確かに! 存在薄いよね!」
「でしょ!?」
確かに俺は影が薄い。でも……こうもハッキリ聞いてしまうと、辛いものがある。俺は居た堪れなくなって、後ろの二人に気付かれない様に少しずつ歩くのを速めながら、その場を離れた──すると、階段を下りようと曲がったところで鈴原さんとぶつかりそうになる。
「ちょっと、危ないわね」
「あ、ごめん」
「丁度いい所で会った。今日の放課後も、体育館で練習できるそうよ」
「そうなんだね……」
俺が返答する声に、鈴原さんは何かを感じ取った様で眉間にシワを寄せる。
「……なに? 何か用事でもあるの? そうだったらハッキリ言いなさいよ」
「いやぁ……大丈夫。行けるよ」
「……そう。だったらいつもの時間、ジャージに着替えて待ってる」
「分かった……」
約束はしたけど、このまま鈴原さんと練習を続けていて良いのだろうか……俺なんかと練習をしていたら、鈴原さんも何かを言われてしまうんじゃ……そう思いながら俺は、歩いていく鈴原さんの背中を見送っていた。
※※※
──放課後になり、約束通り俺達は体育館でバドミントンの練習を始める。鈴原さんの動きをみていると、バドミントン部の人と比べて、ぎこちないから素人だと分かる。でも、運動神経が良くて、スマッシュを打てるまでになっていた。
「……ごめん。もう一度、上げる」
俺はそう言って、取れなかったシャトルを拾う。そしてその場で、打ち上げた……つもりだったが、シャトルをラケットに当てる事すら出来ていなかった。とても恥ずかしい。
「あははは……俺なんかが練習相手でごめん。いま拾うね」と、俺は言ってシャトルを拾う。
顔を上げて、鈴原さんの方に視線を向けると、鈴原さんは何故か、険しい顔でこちらに向かって来ていた。ヤバい……怒られるのか?
「……あのさ、俺なんかって何?」
「ごめんね、真面目にやってるんだけど、これでさ……」
「そんなこと聞いてない! 君ってさ、そういう所あるよね」
「そういう所?」
「直ぐに謝って自信なさそうでさ、おまけに自分を卑下するようなところ」
「…………言われてみれば確かにそうだ。俺は昔からそういう所がある」
「それで悔しくないの?」
「悔しくない……って言えば嘘になる。だけどさ、俺は頑張ってもダメな人間だと分かっているから、今更、変わるなんて無理なんだ」
鈴原さんはそれを聞いて、呆れた様でスゥと鼻で息を吸い……吐き出す。
「……そう、分かった。私は悔しいから、一人で残ってでも練習する。シャトル貸して」
「…………うん」
鈴原さんは俺からシャトルを回収すると、黙って壁の方へと向かう──そして、本当に一人で壁打ち練習を始めた。俺は……俺はその場に留まって迷っていたけど、声を掛ける気にはなれず、帰る事にした──それでも不思議なことにタイムループは起こらなかった。




