4話
「……邪魔、退いてくれる?」
「うん。鈴原さん、おはよう」
俺達はいつもの朝を迎える。鈴原さんは無言で俺の横を通り……あれ? 立ち止まった。俺を無言で見つめて来るけど、どうしたんだ? 何か俺、変なことしたか?
「えっと……どうしたの?」
「……どうして、挨拶してくるの?」
「え……ごめん、迷惑だった?」
「聞きたい事はそんな事じゃない! 大体の人が、挨拶を無視してれば、挨拶して来なくなる……なのに、何であなたは挨拶してくるの!?」
「あ~……」
まず本当に無視している人は、視界にさえ入れようとしない。邪魔と声を掛けてくる時点で、鈴原さんは俺として認識してくれているんだと思う。だから……
「鈴原さんの『邪魔』は、勝手に『おはよう』と思ってるから……かな? ごめん、そんなこと意識してなかったから気にしなくて良いよ」
俺がそう言うと、無表情なのは変わらないが鈴原さんの頬がピクッと動く。それが何を意味しているのかは俺には分からないが、何かを感じ取ってくれたのは確かかもしれない。
「……バッカじゃない。誰が気にするもんですか」
え、何その言い方。少し可愛いかもと思っていると、鈴原さんはスタスタと歩き出す。数秒待っても……タイムループは起こらなかった。
※※※
授業が終わり、帰り支度をしていると、ムワッと香水の臭いが漂ってくる。俺が苦手な匂いだったので、すかさず手で鼻を押さえた。
「あれ、貴幸。どうしたんだ?」と、小林が正面から歩いてきて、俺に聞いてくる。
「いや、さっき香水の臭いがしてさ、苦手な臭いだったから鼻を押さえていた所」
「あぁ……匂いって好き嫌いあるもんな。貴幸はどんな匂いが好きなんだ?」
「どんな匂いか……好きっていうか、石鹸の香りが一番、落ち着く」
「あぁ、分かる。さて、一緒に帰ろうぜ」
「うん」
──次の日の朝。俺はいつも通り学校へと向かっていた。
「……邪魔、退いてくれる?」
後ろから鈴原さんの声が聞こえ、俺は立ち止まると鈴原さんに向かって「おはよう。鈴原さん、どうぞ」と、挨拶を交わして道をあける。
鈴原さんは無言で通り過ぎ、俺は黙って見送る。今日も通常運転! ここでタイムループは絶対に……と思っていると景色が途切れる。
「……は? どうなってるんだ???」
絶対にタイムループは起こらないと思っていたのに、俺は道を空けた所まで戻されていた。モタモタしているとまた戻されてしまう。
そう思った俺はとりあえず「おはよう、鈴原さん」と、少し大きめな声で挨拶をしてみた──だけど無反応。しかも時間切れになってしまい、俺は同じところまで戻されていた。
「こんなこと初めてで、どうしたら良いか分からないぞ……」
とにかく何回もタイムループする覚悟で、鈴原さんに変化がないか見つめる……3回目、分からない。4回目……も、分からない。何だ? 髪型か? 服装か? アクセサリーか? ……5回目、分からない。
「どれも当てはまらないぞ」
頭を抱えたその時、フワッと風が吹き、何だか良い匂いがする。これって……と思ったところで6回目のタイムループが起こった。
俺は鈴原さんの後を追う様に歩き出し、「鈴原さん、もしかして香水を変えた?」と聞いてみる。
「…………臭いって言いたいの?」
「いやいやいや、石鹸系の良い匂いだなって思って」
「お世辞なんて良いわよ」
「お世辞じゃないよ。俺も似たような香水、持ってる」
「……あ、そう」
そこで会話が途切れ、これ以上は会話を続けられないと思った俺は立ち止まる。少し様子を見ていた……が、景色が途切れる事は無かった。
「匂いが正解かよ……きっと昨日の俺と小林の会話を聞いていたんだろうな……匂いなんて注目しなければ気付かないって。女子ってつくづく難しいなぁ」




