2話
気が付くと俺は、人が二人やっと通れるほど狭い歩道で、突っ立っていた。この歩道は見覚えがある。高校の時に何度も通った通学路だ。でも何で? いつの間にか明るくなってるし……。
「邪魔」
混乱したまま歩道を見つめていると、後ろから女子の声がする。後ろを振り返ってみると、そこにいたのは──。
「なに?」
「……いや、何でもない」
そこに居たのは鋭い目つきで俺を睨んでいる制服姿の鈴原さんだった。俺は更に混乱しながらも、鈴原さんに道を譲る──鈴原さんはチャームポイントの黒髪ポニーテールを揺らしながら黙って、通り過ぎていった。
「どうなってるんだ……?」
そう呟いた時、景色が停電したかのように一瞬途切れる……でも、同じ景色のままだ。
「一体、何が起こってるんだ?」
「……邪魔」
「あ、ごめんなさい!」
また女性の声が聞こえ、俺は振り向きもせずに慌てて避ける。通っていくのは……何故か、鈴原さんだった! おいおい、どうなってるんだよ!? 鈴原さんはさっき通って行ったばかりだろ???
疑問が解決しないまま、鈴原さんの背中を見つめていると、また景色が一瞬途切れ、同じ景色を見せられる。
「これって……もしかしてループしてる???」
「……邪魔」
「あ……ごめんなさい」
間違いない。何でなのかは分からないけど、ループしていると思いながら、鈴原さんに道を譲る。あれ? 鈴原さんが制服って事は……自分の体に視線を向けると、俺も制服姿であることに気付く。これってもしかして、事故をきっかけに過去に戻って来たってこと……か???
そう思っているうちに、またまた景色が一瞬途切れ、同じ景色を見せられる。あ~……もうッ! このループを解決しないと、何も考えられねえ!!
「……邪魔」
鈴原さんにそう言われ、俺は後ろを振り返る。んで、俺は何をすれば正解なんだ!? キス? ハグ? ……いやいや、自棄になるな。ここは冷静になれ……黙って鈴原さんを見つめながら考えていると、鈴原さんの可愛い顔が、見る見る歪み、怒った表情へと変わっていく。とりあえず……。
「邪魔って言ってるじゃない。退いて」
「あ、ごめんごめん。挨拶しようと思ったんだけど、思ったより緊張しちゃって……おはよう、鈴原さん」
……俺にしちゃ思ったより、すんなり挨拶出来たな。社会人の経験を積んだからか、それとも、かつてクラスメイトだった人だからか。いずれにしても、当時の俺だったら、可愛い女の子と目を合わす事すら出来なかっただろう。
鈴原さんの反応は……プイっと顔を背ける。そして黙って、通り過ぎていった。さて、どうなる……? 少し様子を見てみるが──ループは始まらない。
「ふぅ……何が良かったのか分からないけど、取り敢えずこれでゆっくり考えられるな。学校に着いたら、状況を整理してみよう」
※※※
俺はバレない様に距離を保ちながら鈴原さんの後を追い、自分がいま高校一年生であることを知る。あとは……黒板をみて、今日が5月の半ばだと知った。そのあと……教室の出入り口付近に居た小林に近づいた。
「おはよう、小林」
「おはよう」
「えっと……変な事聞くけどさ、俺のロッカーって、どこだっけ?」
「ロッカー? お前のロッカーは一番左の上から三番目って分かりやすい位置にあるじゃないか」
「サンキュー。それから、その……俺の席どこだっけ?」
俺がそう聞くと、小林は不思議そうに眉を顰める。
「……お前、大丈夫か?」
「今朝、ちょっとばっかし頭を打っちまって、忘れちゃってさ。あはははは……」
「おいおい、本当にそれ大丈夫か? 休んで病院行った方が良いんじゃないか? なんだったら、伝えておくぜ?」
「体に異常ないし、平気、平気! 記憶が薄れているだけで、直ぐに思い出すからさ!」
「……お前が大丈夫だって言うなら、まぁいいや。鈴原さんの隣。あ、鈴原さんは分かるよな?」
「うん。分かる、分かる。サンキュー」
そうだ……確かに俺、5月初めの席替えの時、鈴原さんの隣の席になったんだ。俺はそう思い出しながら、逃げる様に小走りで自分の席へと移動した。
席に着くと机のフックに通学鞄のリュックを掛け、教室にある壁掛け時計を見ながら「……ホームルームまで、まだ時間がありそうだな」と、呟く。
まず始めから確認してみよう。俺は酔って猫を助けようと車に轢かれた。そこまでは覚えている。それから俺は…………死んだ? いや、今こうしているのは夢かもしれない。だって、同じ時間を繰り返すタイムループがある現実なんて有り得ない。し・か・も・だ! タイムリープして、高校時代に戻って起きている!!
「……厄介だこと」
とりあえず何でタイムリープが起きたのか、それを考えるのは後にしよう。きっと複雑すぎて答え何て直ぐに出ない。現実に戻る方法も……うん、後にしよう。そもそも今は元に戻りたいなんて気持ちはない。
「……と、なるとだ」
「ちょっと!」
俺が呟いていると、隣の席から鈴原さんの声がする。顔を向けると鈴原さんは眉間にシワを寄せていた。
「何をぶつくさ言ってるの? うるさいわよ」
「あ、ごめん。ちょっと考え事してて……」
「悩むのは勝手だけど、静かにしてて」
「うん、気を付けるよ」
俺がそう言うと、鈴原さんは表情を戻して、読書を始める。なるほど、集中したかったのか。さて……これからどうするか? タイムループが起こったキッカケはおそらく鈴原さんだ。だってあの時、俺と鈴原さんしか居なかったし、行き交う車すらなかった。
こりゃ……俺と鈴原さんとの戦いになりそうだな。そう思った瞬間、戦いのゴングが鳴るかの様に、教室内にチャイムが響き渡った。




