1話
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「いやぁ……山本で予約が入っていると思うんですが……」
「山本様ですね。どうぞこちらへ」
女性の店員さんは、そう返事をして酔っ払いの会話でガヤガヤと騒がしい店の奥へと歩き出す。俺は後に続いた──。
「こちらです」
「ありがとうございます」
15人ぐらい座れそうな広間に着くと、俺は幹事の山本君に近づく。
「えっと…………」
「佐藤です」
「おぉ、佐藤。久しぶり! 5500円な。席は好きな所、座って良いよ」
「分かりました」
俺は返事をすると、山本君にお金を渡し、靴を脱いで周りをあまり見ずに部屋の奥へと進む。すると……。
「貴幸、こっちこっち」と、一番奥の席に座っている親友の小林が手を振ってきた。どうやら隣の席を俺の為にとってくれていたようだ。
「久しぶり。貴幸、少し太ったんじゃないか?」
「高校を卒業してから20年も経つんだ。体形が変わったっておかしくないだろ。そういうお前だって、ちょっと頭が薄くなったんじゃないか?」
「いいやがったな、こいつ!」
「あはははは」
俺が小林の隣に座ると、丁度、山本君がパンパンと手を叩く。
「……それでは時間となりましたので、1組のクラス会を開始したいと思います。まずは飲み物を選んでない方は選んでください」
小林はタッチパネルを手に取ると、「貴幸、どうする?」
「ビール」
「だよな! 俺もそうしたよ」
──小林がビールを注文してくれて、しばらく雑談をして待っていると、店員さんが皆の分も含めて運んできてくれる……幹事の山本君が乾杯をすると、一斉に皆飲み始め、場の雰囲気が一気に明るくなる。
「──貴幸、仕事の方はどうだい?」
「毎日、毎日、しんどい……この歳になってもまだ、新しいことも覚えていかなきゃいけなくて、今日もミスをやらかした」
「そっかぁ……どこも大変だな。今日は沢山飲んで、そんなこと忘れちまえな」
「ありがとう!」
初めてのクラス会ということもあるのか、人見知りのある俺はこの場の雰囲気に緊張していたけど、小林の優しさで少し和らぐ。きっと小林が来なかったら、俺はクラス会に出席していなかっただろう。
──しばらくして、周りに居るクラスメイトは自由に移動して、好きな所で好きな様に会話を始める。だけど、俺達二人だけで飲みに来たかのように、俺達の周りには誰も座らなかった……当然か。高校の時、それだけのコミュニケーションを俺は取って来なかった。
「──今日、鈴原さん来てないね」と、お酒が入ったからか、声量が上がった女子の声が聞こえて来る。
「そういや、そうだね。高校の時、アイドルになるって言ってたのに結局、なれなかったから気まずくて来れなかったんじゃない?」
「かもねぇ、まぁあんな性格じゃ無理っしょ!」
「キャハハハハ」
品の無い笑い声が、少し鼻につく。確かに鈴原さんはアイドルを目指せるほど可愛いのにツンツンしている性格をしていて、人を寄せ付けない所がどこかあった。でも、そこまで言わなくても……女って怖い。
「──そういや、貴幸。彼女の方は?」
「いない」
「作ろうと思わないのか?」
「いやぁ、ただ出来ないだけ」
「職場の人は?」
「ダメダメ」
「そっかぁ、性格も顔も悪くないと思うんだけどな」
「普通って事か?」
「まぁ……うん、そんな所か」
「グッ……」
確かに俺は性格や顔だけじゃなく、スポーツも勉強も何をやっても中の下の人間。言い返す言葉もない。俺はヤケ酒を飲むかのようにジョッキを手に取ると、ビールをグイグイ飲み進める。
「そういや……」
「まだ何か?」
「さっきの女子の会話で思い出したんだけど、鈴原ってお前に気があるって噂あったよな?」
「はぁ!?」
俺の声が大きかったのか、クラスメイトの何人かが俺の方へと視線を向ける。俺は慌てて視線を逸らし、持っていたジョッキを静かに机に置いた。
「そんな噂、聞いたことねぇし!」
「そうなのか? 結構、噂になっていたから聞いてるもんだと思ってた」
「──どうせ罰ゲームとか、誰かの意地悪で広まっただけだろ」
「まぁ…………本人が知らないとなると、そうかもしれないな。でも、嬉しいだろ?」
「……ちょっぴりな」
「またまた、本当は嬉しいんだろ? 顔に書いてあるぞ」
小林はそう言って、ニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んでくる。ちょっと腹が立ったが「はいはい、嬉しいですよ。これで満足か?」と、正直な気持ちを伝えた。
「うん、満足だ。正直が一番だぞ、貴幸君」
「……何のキャラだよ」
──二時間が経ち、クラス会が終わる。二次会に行く人達もいたが、久しぶりに会った小林との会話が楽しくて、ついつい飲み過ぎた俺は、帰ることにした。それに二次会なんて陽キャがいく場所、陰キャが行く場所ではない。
千鳥足になりながら、人気のないコンクリートの道を一人で寂しく歩いていると、シュッと何かが俺の前を横切る。
「猫!?」と、叫んだ瞬間、後ろから車のクラクション音が聞こえてきた。
ヤバいッ! このままだと白猫が轢かれる! そう思った俺はチラッと後ろを確認し、この距離なら間に合うと思って飛び出した──。
キキッー!!!! と、タイヤが擦れる音が聞こえたと同時に……ドンッ!!!! と、車が俺を跳ね飛ばす。どうやら酔っていたせいで上手く動けず、距離感も鈍っていたようだ。猫はあの一瞬で逃げていくのが見えた。まともにぶつかったのは俺だけか。
「おい! 大丈夫か!!?」
おそらく男の運転手が降りてきたのだろうけど、答える余裕がなく、俺は意識が薄れていく……これは本当にヤバいやつかもしれない。




