第四話 治部少輔、ウォーターパーク、そして兵糧問題
石田三成は、一つ咳払いをした。
「かつて私は上杉、毛利、真田の諸将と連携し、豊臣家の天下を守るため、あらゆる手を尽くした。そもそも関ヶ原の戦いというものは――」
「ちょっと待って」
阿強が口を挟んだ。
三成は話を止め、不快そうに眉をひそめた。
「……何だ?」
「あんた、さっき何て名前だって言った?」
「石田……石田三成だ」
「……石田? ああ、NON STYLEの石田明?」
三成は黙り込んだ。
何か言い返そうとして口を開きかけたものの、「石田明」という名前にはまるで心当たりがない。
人違いも甚だしいが、相手がいったい誰と勘違いしているのかすらわからず、怒鳴ろうにも適当な言葉が見つからなかった。
「……私は」
三成は深く息を吸い込んだ。
「石田治部少輔三成だ」
一語一語を、はっきりと言い聞かせる。
阿強は少し考えた。
「……治部少輔って何?」
「官職だ」
「ああ、そうなんだ」
三成は阿強を見つめた。
治部少輔。
自分が豊臣政権の中で果たしてきた役割を示す、れっきとした官職である。
それをわざわざ名乗ったというのに、返ってきた反応は「ああ、そうなんだ」の一言だけだった。
三成のこめかみが、ぴくりと動いた。
「……お前、少しは学問を修めたことがあるのか?」
「一応、高校は出てますけど」
「ならば、石田三成という名くらい知っておろう!」
「いや、俺、台湾人なんで」
阿強はそう答えながら、菓子売り場へ歩き出した。
「日本の歴史上の人物なんて、そんなに詳しくないですよ」
三成はその後ろ姿を見つめた。
どうやら、この若者には本当に悪気がないらしい。
しかし、だからといって腹が立たないわけではなかった。
◇
阿強は菓子売り場で柿の種を一袋、チョコバーを二本、缶コーヒーを一本選んだ。
それから、先ほど棚に戻した唐揚げ弁当を取り直す。
阿忠が目を覚ましたら、きっと腹を空かせているだろう。
そう考えて幕の内弁当も一つ買い物かごに加え、レジへ向かった。
その間も、三成は阿忠の身体を借りたまま、阿強の後をついてきた。
そして、先ほど中断された話を再開していた。
「私は太閤殿下のもとで奉行を務め、兵糧の調達から物資の輸送、財政の管理に至るまで、さまざまな政務を取り仕切ってきた。豊臣家の天下を支えるために、どれほどの労を費やしてきたことか」
阿強は商品をカウンターに並べた。
「太閤殿下のご恩に報いるため、私は身を粉にして働いた。豊臣家に背こうなどと考えたことは、一度たりともない」
店員が唐揚げ弁当のバーコードを読み取った。
その途中、三成の声が耳に入ったのだろう。手が一瞬止まったものの、顔を上げることなく作業を続ける。
「それなのに、あの者たちは……! 形勢を見るや態度を変え、己の保身ばかり考える臆病者どもめ!」
店員は柿の種のバーコードを読み取った。
「小早川秀秋! あの恩知らずめ! あやつだけは決して許さん!」
「千二百四十七円になります」
店員はレジの画面を見つめたまま、淡々と告げた。
阿強は財布から代金を取り出して支払った。
三成はまだ話していた。
◇
会計を済ませた阿強は、駅のコンビニのそばにあるベンチに腰を下ろした。
唐揚げ弁当を膝の上に置き、柿の種の袋を開ける。
三成はその隣に立ち、相変わらず小早川秀秋がいかに許し難い男だったかを語り続けていた。
阿強はしばらく話を聞いていたが、ふと思いついてスマートフォンを取り出した。
せっかく本人に会っているのだ。
石田三成がどんな人物だったのか、少しくらい知っておいたほうがいいだろう。
阿強はGoogleを開き、検索欄に名前を入力した。
『石田三成』
表示された検索結果を上から順番に眺めていく。
いくつか記事を読み、さらに画面を下へスクロールしたところで、阿強の指が止まった。
「……ん?」
気になる記述があった。
もう一度読み返し、関連する画像も確認してみる。
どうやら、かなり変わった戦い方をしたことがあるらしい。
阿強は顔を上げ、三成を見た。
「あの、ちょっといいですか?」
「何だ。今、私は小早川の話をしておるのだが」
「一つ確認したいことがあって」
三成は不承不承、口を閉じた。
阿強はスマートフォンの画面を見ながら尋ねた。
「あんたって、忍城を水攻めにしたのに、堤が決壊して味方の陣地まで水浸しになったっていう、あの石田三成ですか?」
三成の表情が止まった。
阿強はその変化に気づかず、画面の続きを読んでいる。
「あれ? 太閤殿下も、このとき現場にいたんですか?」
三成は答えなかった。
「もし秀吉が見てたなら、結構びっくりしたでしょうね」
阿強は純粋に不思議だった。
城を水で囲んで攻める。
そんな作戦を本当にやったのなら、いったいどんな光景だったのだろう。
しかも、その作戦の結果、自分たちの陣地まで水浸しになったという話まで出てくる。
日本の戦国時代には、なかなか大胆なことをする人がいたものだ。
阿強はさらに検索結果を眺めているうちに、別の画像を見つけた。
「あ、これ、面白いな」
スマートフォンを三成のほうへ向ける。
「見てください。ネットで誰かが、忍城の水攻めの図と東京サマーランドの案内図を並べて比較してるんですよ」
三成は画面を見つめた。
そこには、まったく見覚えのない建物や施設が描かれている。
何の図なのか、さっぱりわからない。
「……何だ、これは」
「東京サマーランドっていう、東京にある大きなウォーターパークです」
「……うぉーたーぱーく?」
「プールとか、いろんな水遊びの施設があるところです」
三成は黙ったままだった。
阿強は二枚の図を見比べながら、感心したように続けた。
「いやあ、こうして見ると、本当に似てますね。忍城を攻めたつもりが、周りをウォーターパークみたいにしちゃったわけか」
阿強は画面を拡大した。
「しかも、お城のほうは無事だったのに、自分たちが先に水浸しになったって……すごい話ですね」
三成の頬が、わずかに引きつった。
だが、阿強はまだ気づいていなかった。
むしろ、ようやく目の前の人物について知っている話を見つけられたことが、少しうれしかったのである。
「あ、そういえば」
今度は阿強が顔を上げた。
「戦国無双にも、忍城の水攻めって出てきますよね。俺、あのステージなら知ってます」
三成のこめかみが、また動いた。
彼には「ウォーターパーク」が何なのかもわからなければ、「ゲーム」というものにも心当たりがない。
ただ一つ理解できるのは、この若者が自分の戦歴を、何やら楽しげな遊びと同じように語っていることだった。
しかも本人には、悪意らしい悪意がまるで感じられない。
三成は何か言い返そうとした。
だが、どこから訂正すればよいのかさえわからない。
水攻めの話から説明するべきか。
その奇妙な施設の図について問いただすべきか。
それとも、戦を遊びの題材にするという、理解し難い後世の風習を叱るべきなのか。
考えれば考えるほど、頭に血が上ってくる。
そして、ついに。
「……小早川秀秋」
三成が低くつぶやいた。
阿強は顔を上げた。
「……はい?」
「あの恩知らずめ……!」
阿強は首をかしげた。
忍城の話をしていたはずなのに、どうして急に小早川秀秋が出てくるのだろう。
しかし、三成はもう止まらなかった。
「小早川秀秋! あの恥知らずめ! 関ヶ原の戦場で、あやつが何をしたか……!」
そこから先は、堰を切ったようだった。
◇
三成は怒鳴った。
ただし、やみくもに怒鳴り散らしたわけではない。
誰が、いつ、どこで、何をしたのか。
その一つ一つを、まるで罪状を読み上げるように、正確に並べ立てていったのである。
まずは小早川秀秋。
次に吉川広家。
そして、関ヶ原で日和見に徹した大名や、途中で態度を変えた者たち。
三成の記憶には、それぞれの行動が驚くほど鮮明に残っていた。
年月日、場所、当時の状況。
どれ一つとして曖昧にしない。
まるで四百年間、心の中で同じ報告書を書き直し続けてきたかのようだった。
阿強はベンチに座り、その話を聞いていた。
途中から、小早川秀秋がいかに許し難い人物だったかという説明が三度ほど繰り返されている気もしたが、口を挟むのはやめておいた。
三成はようやく、自分の言いたいことを話せるようになったらしい。
阿強はそう判断し、手元の柿の種に目を落とした。
そろそろ何か食べたい。
袋から一粒つまみ、口へ運ぼうとした、そのときだった。
「無礼者!」
阿強の手が止まった。
「……え?」
「お前、何を食おうとしておる!」
「……柿の種ですけど」
三成は眉をつり上げた。
「柿は痰のもとになると知らぬのか! 身体によくない。食うのはやめておけ!」
阿強は手元の袋を見た。
柿の種。
日本ではよく見かける、米菓とピーナッツの入った菓子である。
当然ながら、本物の柿は一粒も入っていない。
しかし、三成はどうやら「柿」という文字だけで判断したらしい。
阿強は説明しようか迷った。
けれども、目の前の男の顔を見て、やめた。
今ここで「これは柿じゃなくて米菓なんです」と説明したところで、話が素直に終わるとは思えない。
阿強は柿の種を袋に戻した。
それから買い物袋に手を伸ばし、チョコバーを一本取り出す。
三成がちらりと見た。
何も言わなかった。
阿強は少し考えた末、チョコバーも袋へ戻した。
もういい。
食べるのは諦めよう。
「……あの、治部少輔殿」
阿強は顔を上げた。
「結局、あんたは何がしたいんですか?」
三成は口を開きかけた。
「私は……」
しかし、その後が続かない。
阿強は黙って待った。
「私は、ただ……」
三成は少し目を伏せた。
先ほどまでの怒りに満ちた声とは、明らかに違っていた。
「……太閤殿下を、お捜ししているのだ」
阿強は何も言わなかった。
三成はゆっくりと続けた。
「もう一度、あの方のおそばに戻りたい。ただ、それだけだ」
ほんの短い言葉だった。
だが、その一言を口にするまでに、三成はずいぶん長い時間を必要としたようだった。
やがて彼は、気を取り直すように顔を上げた。
「お前たちは太閤殿下から命を受けたのであろう?」
「……ええ、まあ」
「ならば、なぜこのような場所で油を売っておる。さっさとお役目を果たさぬか。切腹が怖くないのか?」
阿強は足元の袋を見た。
六袋。
中身はすべて、徳川家康のしかみ像である。
それから三成へ顔を向けた。
「……ちなみに、太閤殿下から何を命じられたのか、知ってます?」
三成は一瞬、言葉に詰まった。
「……知らぬ」
阿強は袋から一枚の肖像画を抜き取り、三成に差し出した。
三成はそれを受け取ると、絵に目を落とした。
そして、動きを止めた。
「……内府殿」
「そうです。徳川家康です」
三成はしばらく絵を見つめていた。
阿強は説明を続けた。
「太閤殿下から、これを千枚印刷して日光東照宮へ持っていけって言われたんです。家康の墓の周りを、これで埋め尽くせって」
三成は顔を上げた。
それから、阿強の足元に積まれた六袋のしかみ像を見下ろす。
しばらくして、その表情が変わった。
「……太閤殿下の、ご命令なのか」
「はい」
三成はもう一度、手元の肖像画を見た。
その目つきには、先ほどまでとは違う光が宿っていた。
「そうか……」
小さくつぶやいてから、阿強を見据える。
「それほど重大なご命令を受けながら、お前たちはここで飯を食い、菓子までつまんでおるのか!」
「……いや、だから」
阿強はとうとう言い返した。
「食べないと腹が減るじゃないですか」
「何?」
「腹が減ったら、歩けなくなります。これからまだ何時間も電車に乗るんですよ」
三成は黙った。
阿強はその顔を見ながら、続けた。
「それとも、治部少輔殿が兵糧を支給してくれるんですか?」
三成の表情が固まった。
「……兵糧?」
「はい。兵糧です」
阿強は真面目な顔でうなずいた。
「太閤殿下の命令を果たすために移動してるんですから、俺たちだって腹ごしらえくらい必要でしょう?」
三成は口を開きかけた。
しかし、何も言えなかった。
兵糧の確保。
それは、かつて自分が何よりも重視してきた仕事の一つだった。
どれほど立派な軍勢を集めようと、食わせるものがなければ兵は動かない。
その理屈を、三成ほどよく知る者も少ないだろう。
まして、これから長い道のりを移動しなければならないというのなら、なおさらである。
三成は阿強を見つめた。
阿強も三成を見つめた。
しばらく沈黙が続いた。
やがて三成は、何も言わずに歩き出した。
向かった先は、足元に置かれた六袋のしかみ像だった。
◇
三成は袋の前にしゃがみ込み、中から一束の肖像画を取り出した。
そして、一枚ずつ丁寧に並べ始めた。
端がずれているものは揃え、角が折れているものは伸ばす。印刷された面に傷がつかないよう、紙の扱いにも細心の注意を払っていた。
阿強はその様子を、呆気に取られて眺めていた。
「……何してるんですか?」
三成は顔を上げなかった。
「太閤殿下のご命令だというのに、こんな雑な仕上がりで済ませるつもりか」
一枚の肖像画を手に取り、表面をじっと確認する。
「印刷にむらがある。紙の端も揃っておらぬではないか」
三成はその一枚を慎重に伸ばし、ほかの紙とぴったり重ねた。
「このような有様をご覧になれば、太閤殿下はまた頭髪が抜けるほどお怒りになるぞ」
阿強は何か言おうとした。
いや、それはコンビニのコピー機で印刷したもので、別に俺たちが手を抜いたわけじゃないんですけど。
そう説明しかけたものの、結局やめた。
三成は、実に真剣だった。
一千枚もの家康のしかみ像を、一枚ずつ確認し、丁寧に揃えている。
それはどう考えても、天下を左右するような仕事ではない。
だが、三成にとっては違うのだろう。
太閤殿下から命じられた仕事である。
それだけで、手を抜く理由がなくなるのだ。
阿強はしばらくその姿を眺めていた。
手伝おうかと思って腕を伸ばしかけたが、なぜか途中で引っ込めてしまった。
少し不思議な気分だった。
やがて、阿強は口を開いた。
「……あのさ」
「何だ」
三成は紙を揃える手を止めなかった。
「あんた、今、阿忠の身体を使ってるんですよね」
「それがどうした」
「……それだと、俺たち、いつまで経っても飯が食えないんですけど」
三成の手が止まった。
阿強は続けた。
「阿忠が戻ってこないと、あいつも弁当を食べられないでしょう?」
三成は手元の肖像画を見た。
それから、阿強を見た。
再び、長い沈黙が訪れた。
今度も反論できなかった。
◇
やがて三成は、最後の一枚を丁寧に揃え、紙の束を袋へ戻した。
それから立ち上がり、もう一度、阿強を見た。
何か言いかけたようにも見えたが、結局そのまま口を閉じる。
そして、阿忠の身体から静かに離れていった。
別れの挨拶もなかった。
ただ、先ほどまでそこにあった張り詰めた気配が、潮が引くように遠ざかっていく。
次の瞬間、阿忠がゆっくりと目を開けた。
大垣駅のコンビニのそばだった。
目の前には阿強がいる。
足元には、見覚えのある六袋のしかみ像。
阿忠は辺りを見回した。
「……あれ?」
それから阿強を見る。
「……俺、さっきまでどこにいた?」
「大垣」
「大垣って、どこ?」
「岐阜県」
阿忠はしばらく考えた。
「……で、今度は誰だった?」
「石田三成」
「……石田?」
阿忠は眉をひそめた。
「石田明? NON STYLEの?」
阿強は黙って幼なじみを見つめた。
三秒ほどしてから、ぽつりと言う。
「……俺もまったく同じこと言った」
「……何だよ、それ」
阿忠は首をかしげながら、阿強の隣に腰を下ろした。
そして、買い物袋を覗き込む。
「あ、弁当あるじゃん」
「あるよ」
「唐揚げのやつ、俺が食っていい?」
「いいぞ」
「柿の種は?」
「それも買ったけど、さっき三成に止められた」
「何で?」
「柿は痰のもとになるから、食うなって」
阿忠は一瞬、黙った。
それから袋の中へ手を伸ばし、柿の種を取り出した。
包装を破り、中身を一つかみ口へ放り込む。
ぽりぽりと噛みながら、平然と言った。
「三成は俺の母ちゃんじゃねえし」
阿強はその顔を見て、思わず笑った。
それから唐揚げ弁当を阿忠に渡し、自分も幕の内弁当を開けた。
ようやく食事である。
二人は大垣駅のコンビニのそばにあるベンチで、しばらく黙々と弁当を食べた。
駅のホームから、列車の案内放送が聞こえてくる。
もちろん日本語だった。
二人とも、内容まではろくに聞いていない。
今はとにかく、腹を満たすことが先決だった。
◇
しばらくして、阿忠が箸を止めた。
「……なあ、阿強」
「何だ?」
「さっきの石田三成、何か言ってた?」
阿強は幕の内弁当を食べながら答えた。
「太閤殿下を探してるんだってさ」
「秀吉を?」
「うん。もう一度、そばに戻りたいらしい」
「……ふうん」
阿忠は唐揚げを一口食べ、足元のしかみ像の袋を見た。
「じゃあ、あいつも俺たちについてくるのか?」
「たぶんな」
「……あいつ、俺たちがこれから名古屋方面に行くって知ってるのか?」
阿強は少し考えた。
「どうだろうな。でも、別に気にしないんじゃないか?」
「何で?」
「太閤殿下を探したいんだろ。だったら、俺たちについてくればいいと思ってるんじゃないか」
阿忠は黙ってうなずいた。
それから、ふと思いついたように顔を上げる。
「……なあ」
「今度は何だ?」
「名古屋の辺りってさ、三成と仲の悪かった武将とか、いないのかな」
阿強は箸を止めた。
「……さあ?」
「調べてみてよ」
「自分で調べろよ」
「俺、今、弁当食ってるし」
「俺も食ってるんだけど」
結局、阿強がスマートフォンを取り出した。
Googleを開き、名古屋周辺と石田三成に関係する歴史上の人物を調べ始める。
検索結果を眺めながら、画面を下へスクロールしていく。
やがて、その表情が少しずつ変わり始めた。
「……あ」
阿忠が顔を上げる。
「何?」
「……いるわ」
「誰?」
「いや、何人か」
阿忠は箸を止めた。
「……多いの?」
阿強はさらに画面をスクロールした。
しばらくして、ゆっくりとうなずく。
「……かなり多い」
二人は黙った。
遠くから、再び駅の案内放送が聞こえてきた。
名古屋方面へ向かう次の列車が、まもなく到着するらしい。
阿強がスマートフォンで発車時刻を確かめると、あと八分ほどだった。
阿忠は手元の柿の種を阿強へ差し出した。
「……食う?」
「うん、もらう」
阿強は一つかみ取った。
「三成が、柿は痰のもとになるって言ってたぞ」
「知ってるよ」
阿強は柿の種を口へ放り込んだ。
「……俺は三成じゃないからな」
二人は並んでベンチに座り、弁当を食べながら、次の列車を待った。
足元には、六袋のしかみ像がきちんと並んでいた。
第四話 了




