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忘れられた幼馴染

今回から本格的に幼馴染(クロード&リュークベルト)編に突入します

対戦よろしくお願いします

「えぇ。リュークベルト様の言う通り、お嬢様とあのお二方は幼馴染という関係ですよ」

「えぇぇぇ!?なんで言ってくれたなかったの!?」


 学園から帰り、すぐさまセイラに事実確認をとると、あっさりと肯定された。嘘でしょう。


「……逆に覚えていらっしゃらなかったんですか?今でこそそれほど交流はありませんが、昔はよくお互いの家に遊びに行っていたんですよ。クロード様とリュークベルト様、三人で遊んでいた時もありました」

「う、うそうそうそ、だってそんなのゲームには──!」

「げーむ?なんですかそれは」


 ハッとして私は口を噤んだ。すぐさま「なんでもない」と否定したが、セイラはまだ疑いの目を向けて来ている。

 あ、危ない危ない。思いがけず前世のことを口走ってしまうところだった。


 にしても、リリクとクロードたちが幼馴染?そんな情報ゲームには紹介されなかったし、そんな素振りさえなかった。しかも、セイラの言い方的に昔はそれなりに仲が良かったみたいだし。まぁ、全く覚えてないけどね!


「はあ……よく分かりませんが、それほど驚くことですか?確かに、お嬢様はあまりお二人のことを快く思っておりませんでしたが……」

「え?快く思っていなかったって?」


 私の言葉にセイラは少しだけ目を見開く。


「……本当に覚えてらっしゃらないのですね。お嬢様は昔、あのお二人を利用して社会的地位を確保しようとしていたのですよ」

「…………は?」

「あの時のお嬢様は凄まじかったですねー。クロード様のご趣味を馬鹿にし周囲に同調圧力をかけたり、リュークベルト様を騙して『心優しいご令嬢』を周りにアピールしていたり。今までお嬢様が刺されて来なかったのが不思議なくらいです」

「ちょ、ちょちょちょっと待って。タイム。タイムだから」

「はい。どうされましたか?」


 私は頭を抱えた。セイラの口からつらつらと出てくる出てくるリリクの悪虐非道な行いに。

  もし、彼らがこの事を覚えているとするなら、私に対するクロードの剥き出しの嫌悪感も、リュークベルトの冷たい眼差しにも全て理由がつく。


「セイラ……これから私は彼らとどう接していけばいいの……?」

「まあ、簡単には仲良くできないでしょうね」

「ヴッ」

「昔の記憶なので朧気ですが、相当怒っていらっしゃったようでしたし」

「グッ」

「念の為、警備隊を配置させておきますか?」

「セイラァ……!!」


 怖いこと言わないでよぉ!と私は彼女に泣きつく。セイラは顔色一つ変えずに、「暑苦しいですお嬢様」とバッサリ切り捨てた。うーん非情!


「やはり、真摯に謝罪するのが一番じゃないですか?それで許されるなら生ぬるいと思いますが、何も言わないよりかはマシかと」

「………私もそう思う」


 コクリと頷く。セイラはその様子を見て、特に表情に変化は無かったが、私の背中にそっと手を置き優しく撫でつけた。


「お嬢様が本当は心優しい方だということを、私はよく分かっております。以前のお嬢様ならまだしも、今のお嬢様であれば、きっと和解できると思っておりますよ」

「セイラ……!ありがとう」


 明日からのグループ活動に一抹の不安を抱きながら、私は眠りについた。




 *




「昨日言っていたように、今日はグループで授業を受けてもらう。お前たちが昨日決めたグループは、二ヶ月後の模擬試験で共闘する仲間だ。今のうちに信頼関係を築き、互いの弱点を補えるような団結力を身につけておくように」


 アイザー先生の言葉に教室中がザワザワと騒ぎだす。あちらこちらから「模擬試験までやるなんて聞いてない!」「私、すごく心配になってきたわ……!」という不安そうな声が聞こえる。


 私もそのうちの一人だった。


 模擬試験!?それって確か、ゲームでプレイヤーが選択したキャラとアイルが初めて行うイベントの一つよね!?


 まだ攻略対象とアイルの距離が縮まっていない序盤の方で、最初に起きるイベントがこの『魔法技術模擬試験』だ。簡単に言うと、今まで自分が磨いてきた魔法の腕を他のグループと戦いながら、審査員である教師たちにアピールする、というのが目的だ。


 ゲームでも四人のグループを作っていたが、攻略対象とアイルの他に、あとの二人はただのモブだった記憶だ。

 しかし、アイルが今所属しているグループには攻略対象が二人もいる上にモブ悪役令嬢である私までいる。少なからず実際のゲームと現実の乖離が発生していることはわかった。


 にしてももう模擬試験が目前まで迫ってきているなんて……時間が経つのが早すぎる。それにまだ私、攻略対象のクロードともリュークベルトともまだ和解出来ていないし!こんな状態で団結力を身につけろだなんて、仲間割れしろと言われた方がまだ簡単だろう。


「静かにしろお前らー。今は授業中だぞ」


 アイザー先生の言葉に教室が静まり返る。アイザー先生は今一度教室を見回し、コホン、と咳払いをした。


「本日行うグループ活動は魔法薬の調合だ。ここ(黒板)に全ての材料と入れ方を書いておいた。あとは各グループ、協力し合って制作しろ。それと、リーダーを今のうちに決めておいてくれ。リーダーは今日作った全員分の魔法薬を次のグループ活動までに提出させておくこと。あとは各自自由にやれ。解散」


 アイザー先生はそれだけ言うと教室から出ていってしまった。静かだった教室が一瞬の内に賑やかになる。


「アンシュリー様、僕前の机から材料取ってきますね!」

「あ、ありがとうございますアイルさん。私は器具の準備を……」

「ちょっと待って二人とも〜。アイちゃん先生、『リーダーを今のうちに決めておけ』って言ってたよね?それ先に決めちゃおーよ。ね、クロード?」

「……ああ」


 アイちゃん先生………アイザー先生のことをそんな風に呼んでいるのは間違いなく彼だけだろう。


「そ、そうですね!決めてしまいましょうか。えぇっと……なりたい方、いますか?」


 ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。


「あは。いないみたいだねー」

「ど、どうしましょう……」


 困った顔をしたアイルが目に入って、思わず助けたくなる気持ちを抑える。今、このグループのリーダーに私がなるにはいかないのだ。

 私は是非とも、アイルにリーダーになって欲しいと考えていた。彼をリーダーにしてしまえば、攻略対象との会話も増えるだろうし、頼り頼られの関係性を築くことが出来る。そして私は隅でグループ活動を手伝い、イチャイチャしている所を盗み見る………やはりここは、アイルがリーダーになるべきだと思う。


「にしても珍しいねー。アンシュリーさんなら喜んで食いつきそうな役だと思ったのに。一体どういう風の吹き回し?」

「っえ?」


 ヌッと私の隣にやって来たかと思えば、そんなことを言われる。確かに以前のリリクなら、その意識の高さ故に喜んでリーダーになっていたことだろう。

 しかし、今の私はもう違う。聖女になることをキッパリ諦めて、穏やかな金持ちライフを過ごそうと思っているのだ。


「わ、私では満足にリーダーを果たせるとは思えませんので……アイルさん、私はアイルさんがリーダーに相応しいと思います」

「えぇ!?ぼ、僕ですか!?」


 アイルはぎょっとして飛び退く。私はコクリと頷いた。


「はい!アイルさんならきっと、リーダーとしての役割を果た──」

「──ぷっ!」


 突然、リュークベルトが不自然に噴き出す。そのままクツクツと肩で笑い続ける。……いや、笑えるようなことを言った覚えはないのだが。


「エヴァント様……?」

「あーごめんごめん。アンシュリーさんが立候補しないなんて珍しいなーと思ってたら、アイルにその役割を押し付けだすからつい面白くって」

「え………」


 お、『押し付ける』?すごく人聞きの悪い言い方だ。そんなつもりは毛頭無かったのが、もしや客観視そう見られてもおかしくなかったのかもしれない。私はただ単に、アイルをリーダーさせて、攻略対象との距離を近づけさせようと思っただけだ。


「お、押し付けるだなんてとんでもございません!私はただ、アイルさんを推薦したまでで……」

「アンシュリーさんさぁ、一体何企んでるのか知らないけど、自分よりも劣っている生徒を推薦するのはやめなよ。……アイルくん、だっけ?彼が可哀想だよ」

「そ、そんな……」


 チラリとアイルを見ると、困ったように眉を下げてオロオロしていた。クロードに至ってはこちらに目もくれず一人で魔法薬の準備をし始めている。


「だーかーら!俺的には、このグループで一番優秀な成績であるアンシュリーさんがリーダーに相応しいと思うんだけど」

「え」

「ねー、クロードたちもそう思うよねー?」


 クロードは顔を背けたまま「ああ」とだけ返事する。一方のアイルは困ったように私とリュークベルトを交互に見続けている。


「ほら、君もそう思うよね?」


 ニッコリ笑顔のままなのに、妙な圧を感じさせるリュークベルト。それを真正面から受けたら、ただでさえこの面子で怯えているアイルには、首を縦に振ることしか出来ないだろう。


「はい!じゃあ決まり〜。俺から先生に伝えておくから、みんなは先に魔法薬作っててねー」


 リュークベルトはバイバ〜イと手を振り去っていく。ぽつんと残された私は、あまりにも惨めで滑稽だった。


 ていうか、私がリーダーになっちゃったんですけど!?アイルをリーダーにさせるつもりだったのに、リュークベルトに丸め込まれて私にされたし!これこそ『押し付ける』ということじゃないのか。


「すみません、アンシュリー様……!エヴァント様からの圧に耐えきれなくて、つい頷いてしまいました……!」


 アイルが申し訳なさそうに頭を下げる。私は首を横に振った。


「大丈夫ですよアイルさん。仕方の無いことですから。私がアイルさんの立場でしたら、きっと同じことをしていたと思います。アイルさんこそ、押し付けられたと思われたらすみません。そんなつもりは全く無かったのですが……」

「い、いえ!そんなこと思っておりません!むしろアンシュリー様のような方にそう言ってもらえて光栄でした……!」

「アイルさん……!」


 やはり、アイルは天使だと思う。あんなふうにに詰められていたのに、百二十点満点の解答をして私を慰めてくれるのだから。


「おい、お前ら。サボってないでこっち手伝え」

「あ、す、すみませんアクシス様!」

「ただ今参ります」


 ──その後、一悶着ありつつも魔法薬の制作を終えることが出来た。どうやら他のグループは上手く時間を使えたらしく、放課後まで残っていたのは私たちのグループ──否、そのグループのリーダーである私のみだった。


 窓から夕焼け空が見える。最後まで手伝うと言ってアイルだけは残ろうとしてくれたが、「あとは先生に提出するだけだから大丈夫です」と言って無理矢理帰した。もちろんクロードとリュークベルトは授業が終わった瞬間速攻帰宅していったが。


「……ふぅ。これで良し」


 四人分の瓶を箱に詰めてラベルを貼って、効力の説明書を書き終わり、ようやく仕事を終えることができた。あとは先生に提出するだけだ。


「よっこら──っん!?おっも……!」


 四人分の魔法薬が入った箱を持ち上げようとしたが、五十センチほどの大きさの瓶にたっぷりと液体が入った重量はかなりのものだった。


 流石に一気に全部は持ち上げられないと判断したので、二人分の瓶を往復して運ぶことにする。


 クロードの魔法薬瓶を持ち上げようとした瞬間、ツルッと手が滑った。


「え」


 ──パリーーーン!!!


 クロードの瓶は見事に割れて砕け散り、中の液体が全て地面に飛び散る。

 一瞬で水浸しになった教室に私はサァァと顔を青ざめた。


「……ッスーーー………………終わった」


 明日、クロードによって半殺しにされた自分の未来が見えた気がした。

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