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地獄のメンツグループ、爆誕

 ジーニアス魔法学園に入学してから一週間。私は今、とんでもない問題に直面していた。


「アイルがまっっったく攻略対象と絡まない……!」


 そう、セイバラの主人公であるアイルが、全く攻略対象と絡もうとしないのである。

 それはアイルが攻略対象に嫌われているからとかではなく、ただ単にいつの間にかアイルが私の隣に来ては話しかけてくるのである。

 以下はその一例だ。


「アンシュリー様、お隣よろしいですか?」

「アンシュリー様、一緒にお昼ご飯を食べませんか?」

「アンシュリー様、分からないところがあるんですけど……」


 ……というように、アイルが私以外の人を誘おうとしないのである。私がアイルの頼みを断れば良いだけかもしれないが、世界のヒロインに対して、あんなに可愛らしくお願いされたら断る方が難しいだろう。なんだかんだ快く承諾してしまう私も問題の一つである。


 どうしたものかと教室の隅の席で頭を抱えていると、また最近よく耳にする声が聞こえた。


「アンシュリー様、どうされましたか?ご気分が優れませんか……?」

「……アイルさん」


 心配そうに顔を覗いてくるアイルは天使のようだ。私は体を起こして、大丈夫だと伝えるために首を振る。


「すみません。少し考え事をしていただけです。アイルさんこそ、どうされましたか?」

「い、いえ!僕はただ、アンシュリー様が辛そうにしていらしたので声をかけただけです」

「そうなんですか。ご心配をお掛けして申し訳ありません」


 アイルはとても優しい。どうでもいいモブである私にも、彼は自分のことのように心配してくれる。


 しかし、それではダメなのである。アイルには今すぐにでも攻略対象とイチャイチャしてもらわないと。世界の平和のために、いや、彼らがイチャイチャしているところを私が見たいがために!


「お前たちー、席に着けー」


 一人息巻いていると、教室にアイザー先生が入ってきた。思い思いに過ごしていた生徒たちが全員席に座る。アイルも急いで私の隣の席に座った。


「今日はグループごとに別れて授業をする。適当に一グループ四人の班を作れ。作ったらこの紙に全員の名前を記載して提出すること」


 教室中がザワザワと騒ぎだす。既に四人グループを作り、紙に名前を書いている人達もいた。


 私も早くグループを作らないと取り残されてしまう。しかし、キョロキョロと辺りを見回すと、サッと視線を逸らされ、近づこうものなら蜘蛛の子を散らすように人が離れていく。


 ──あれ、これ詰んだ?


 リリクがあまりにも人望が無さすぎて、全く人が関わろうとしない。むしろ避けられていく一方だ。

 このコミュ障悪女が!せめてコミュ力のある悪女になって欲しかった。


「アンシュリー様!」

「アイルさん。どうしましたか?」

「……あっ、あの!もしよろしければ、僕と一緒にグループを組みませんか?」

「え」


 アイルは心配そうな瞳でこちらを見上げる。断られたらどうしよう、気持ち悪がられたらどうしよう、という不安が手に取るように分かった。


 その一方、私は天にも昇るような気持ちだった。

 だってあのアイルが、私の推しキャラの一人であるアイルが、私と同じグループになりたがっている。


 ぼっちめうの私にとって、今のアイルは天使に見えた。……いや、それはいつものことか。


 まあそれは兎も角、私はアイルを安心させるようにアイルの手の上からさらに自身の手を重ねた。


「お誘いくださりありがとうございます。私で良ければ、是非ご一緒させてください」


 アイルは一瞬驚いたように目を見開かせて、パァァ……!と花が咲き綻んだように微笑んだ。

 うっ、目がァ!目がァァ!


「はい!一緒に頑張りましょう!」


 圧倒的天使。ミカエルもびっくりの尊さだ。私は何度もコクコクと頷きたい衝動を抑えて、満面の笑みを浮かべた。それでも、顔がニヤけていないか心配だったが。


「それじゃあ、紙に僕とアンシュリー様のお名前を書いておきますね。……あとの二人はどうしましょうか?」


 ……そういえばグループに必要な人数は四人だった。アイルと私だけでは、当たり前だが人数が足りない。アイルに誘われた嬉しさですっかり忘れていた。


「ええっと……そうですね。あの、そこのお方──」

「ヒイッ!お断りします〜〜!」

「……………えっと、……では、そちらのご令嬢は……」

「ご、ご遠慮させて頂きますわ〜〜」

「…………………そ、そちらの方は……」

「か、勘弁してください〜〜!」

「………………」

「あ、アンシュリー様……」


 ───惨・敗。


 私は地面に平伏しそうになるのを必死に堪えた。前世は陰キャだった私にとって、こんなにも人から断られたら流石にメンタルがズタボロになる。オヨオヨオヨ……と心の中で涙した。


 何より、何もアイルの役に立てていないことが一番悔しい。勉強も魔法も所作も完璧なのに、コミュ力が無いという欠点があまりにも他を上回り過ぎている。私は今すぐ貴族をやめた方がいい。


「だ、大丈夫ですよアンシュリー様!そんなに落ち込まないでください!誘いに乗ってくれる方は他にもいらっしゃると思いますし!」

「アイルさん……すみません、全然力になれなくて……」

「えぇぇ!?全然そんなことないですよ!ぼ、僕なんかと仲良くしてくださる時点で、アンシュリー様には救われていますから!」


 焦ったように私を慰めるアイル。頑張ってくれている彼には申し訳ないけれど、その姿が可愛くて愛おしくてしょうがない。私はクスリと笑って、「ありがとうございます、アイルさん」と感謝を述べた。


「少しだけ元気を取り戻せました。アイルさんのお陰です。頑張って他の方を誘ってみますね」

「そ、そんな!僕は何も……っぼ、僕も、他の方を誘ってみます!一緒に頑張りましょう!」


 お互いにそう言い合って、なんだがおかしくなって同時に吹き出す。

 どうやら私たちは、思いの外お互いを思いやっていたみたいだ。心にポカポカするものを感じながら、アイルと微笑みあった。


 ──さて、アイルに慰めてもらったことで、メンタルも十分に回復した。今度は私が恩返しをする番だ。頑張れコミュ障悪役令嬢。他人の感情なんかに惑わされずに、【YES】を選択してくれる優しい人を見つけるのだ。


 ふんすふんすと息巻いていると、何やら教室の隅が騒がしい。ふとそちらを見ると、たくさんの人に囲まれたクロードとリュークベルトの姿があった。


「うわぁ……なんだかすごい人集りですね……」

「ほ、本当ですね……」


 流石攻略対象というべきか、客寄せパンダのように人が集まっている。入学して一週間しか経過していないのに、もうあの人気だ。ゲームではファンクラブも存在していたらしいが、あの人気なら設立するのも頷ける。


一応笑みを浮かべているが、よく見ると顬がピクピク動いているクロードに対し、隣にいるリュークベルトはへらへらと人好きの良さそうな顔で笑い続けている。対称的な二人だが、一緒にいるということはあそこは既に二人分のグループを形成しているらしい。


 どうせならアイルをあの中にぶち込ませるのもアリだったが、あの人集りではすぐに空きが埋まるだろう。何より、おそらく今のアイルは、彼らと同じグループになりたいだなんて望んでいないだろう。やっぱりアイル自身から彼らに興味を持って、心の距離を近づかせてほしい。


 それにまだゲームは始まったばかりだ。心を通わせる機会はいくらでも作れる。


 私は早々に二人から目線を逸らして、別の人へ向けようとする。

 しかし、目線を逸らそうとした直前、リュークベルトとバッチリ目が合ってしまった。


 ヤバっ、と思いすぐに目線を外し背中を向けたが、心なしかこちらに近づいてくる足音が聞こえる。しかも、先程まで騒がしかった声も、ピタリと止んでしまったような気がした。


 どんどん近づいてくる足音は、私のすぐ後ろまで来て止まった。目の前にいるアイルが戸惑った表情で私の頭上を見上げている。…………嘘でしょ。


「ねぇ、君。名前なんだっけ?」

「あ、アイルです!」

「アイルくんかぁ。……ねぇ、そっちのグループってもしかして二人しか埋まってないかんじ?」

「へ!?あ、は、はい!そうです!」

「へぇ、そうなんだぁ。……実は俺たちのグループもまだ二人しか決まってなくてさ〜……──」


 ゲームで何度も聞いた声が、真後ろから聞こえる。私は悲鳴を上げそうになるのを何とか堪えながら、ゆっくりと後ろを振り返った。


「──もし良かったら……組まない?俺たち」


 まるで彫刻のように美しい顔が、こちらの反応を楽しむようにゆっくりと歪められた。




 *




 周囲がザワザワと、先程とは違う形で騒ぎだす。

「どうしてリュークベルト様があの方々を?」「一体どういうおつもりなのかしら……」などの戸惑いの声が、至る所から耳に入った。


「あれ。おーい、聞こえてる〜?」

「っあ、す、すみません!えぇっと、エヴァント様が私たちと同じグループに……ですか?」

「そ。あとクロードもね」


 リュークベルトの言葉に、さらにクラスがざわめき始める。「クロード様まで!?」という驚きの声が聞こえた。


「……おい、リュカ。勝手に話を進めてんじゃねぇよ」


 しかし、その騒ぎを打ち消すように冷たい声が教室内に響いた。不機嫌そうな顔をしながら、クロードがこちらまでズカズカと歩いてくる。


「なんで俺が、こんな奴らとグループを組まなきゃならねぇんだよ」

「えー?不満〜?」

「当たり前だろ。よりにもよって、コイツとなんて──……」


 顰めっ面のまま、見下すようにクロードが私を見る。美人は怒るととても怖いとよく聞くが、確かにそうだと思った。今にも背筋が凍りそうだ。

 そして私、まだ何もしていないはずなのに、既に攻略対象の好感度がマイナスの域に達している気がする。

 悲しいかな、それが悪役令嬢として生まれた宿命である。


「まぁまぁそんな怒るなよクロード。この二人が嫌なら、あそこの野次馬ちゃんたちと組むってことになるけど。それでもいいの?」

「…………」


 クロードの顔が明らさまに嫌そうな顔になる。彼の頭の中で、私たちとそれ以外の人達を天秤に乗せて重さを測っているのだろう。

 そして、結局クロードは「ハァァァーー………」という重く長い溜め息を吐いて、物凄く嫌そうな顔で私たちを指差した。どうやら、彼の天秤が傾いたのは私たちの方らしい。


「はい。じゃあ決まりねー。名前書いておくね」

「は、はい!ありがとうございます!そ、その……よろしくお願いします!」

「はいはいよろしくー。あ、名前なんだっけ?」

「アイルです!」

「アイルくんね〜」


 ほ、本当に攻略対象と同じグループになってしまった……一セイバラファンとして攻略対象とアイルの共通点が出来たことを喜ぶべきなんだろうが、クラスメイトの反応とアイルの不安そうな表情から、素直に喜べない自分がいる。


 微妙な気持ちを味わっていると、アイルがコソッと耳打ちしてきた。


「アンシュリー様。このような事を聞くのは失礼かもしれませんが、このお二人と以前からお知り合いだったんですか?」

「え?」

「何だか、ずっと前からお互いを知っていたような言い方だったので……」


 ずっと前からお互いを知っていた?そりゃもちろん、彼らに対する知識は山ほどありますけど。


 しかし、それはゲームでの知識であって、私が一方的に知っている内容だ。ゲームでリリクが攻略対象と昔馴染みだなんて明記されていなかったし、ここは否定しておいた方が良いだろう。逆に彼らが知っている私の情報なんて、どうでも良すぎて雀の涙ほどもないんじゃなかろうか。


「うーん……別に知り合いではないですね。偶然だと思います」

「偶然……そ、そうですよね!何だか早とちりしてしまって──」

「えー?何言ってんのアンシュリーさん。もしかして、覚えてないの?」

「……え?」


 突然、リュークベルトがアイルの言葉を遮って私たちの間に割り込む。その目は未だ楽しそうに歪められていたが、どこか鋭く、氷のような冷たさを感じた。


「俺とクロードと君。親同士が仲良くて、小さい頃はよく一緒に遊んでたでしょ?」


 ………え?


「幼なじみなんだよ?俺たち。……もしかして忘れちゃった?」

「………………………え?」



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