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専属侍女のセイラ

 ジーニアス魔法学園は寮制度であり、全生徒がそこに住んでいる。生徒の公平性を守るためらしいが、その実、高貴な身分の生徒にはかなり豪華な部屋が与えられている。公平性とは。


 候爵令嬢であるリリク・アンシュリーも例外ではなかった。


 一人部屋だというのに、無駄に広い自室のベッドで私は仰向けに倒れていた。今日の反省会タイムである。


 うぅ……初日から人が頭を下げただけであんなに驚かれるなんて。攻略対象であるクロードとリュークベルトも大きく目を見開いて驚いていたみたいだし……前の私って、一体どこまでやらかしたらここまで大袈裟な反応をされるんだ……。


「はぁぁー……」

「どうされましたかお嬢様」

「ぎゃあああ」


 突然真横から声が聞こえたかと思えば、そこにいたのはリリクの専属侍女のセイラだった。


「ご帰宅なさってからすぐにベッドに倒れ込むなんて、はしたないですよお嬢様。せめて制服を着替えましょう」


 セイラはゲームでは一度も登場しないものの、リリク・アンシュリーが小さい頃からずっと一緒にいるメイドだ。寮で生活することになっても、一人で生活させるのは心配だからと言う理由でお父様の命によって着いてきてくれたのだ。たまにこうやって気配を消して話しかけてきてくることがあるから、転生後はその度にビビらされている。


「セイラ……私、入学早々やらかしてしまったかもしれない……」

「……あのお嬢様がご自分の行動を後悔なさるなんて、とても珍しいですね。今まで我が道を突き進んでいらしたじゃありませんか」

「もう、私は聖女になることを諦めたの。周囲の人に対して行動を改めることにしたんだから」

「確かに入学三日前からそのようなことは仰っておりましたが、あまり実感が湧きませんね」


 そう、私は転生初日、セイラに『聖女を諦める』

 という宣言していた。

 この宣言には理由がある。転生後のリリクが以前とあまりにも性格が違っていても、怪訝に思われないようにする為だ。

『リリクの性格が悪いのは聖女を目指していたから』という認識が出来ているなら、その認識を最初から無くしてしまえばいい。つまるところ、転生したことがバレないようにする為の信憑性の高い『理由』が欲しかったのだ。

 幸いにも私は聖女になりたいだなんて思っていないし、そもそも聖女になるのはアイルだ。アイルという絶対的ヒロインを差し置いて、私が聖女を目指そうだなんて烏滸がましいこと。


 だったら転生前のリリクには悪いがここはスッパリ聖女を諦めてもらって、金持ち貴族として第二の人生を楽しもうと思う。もちろん、セイバラのストーリーには絶対関与しないところで。


「……しかし、お嬢様がそう決断なさったのなら私は止めません。ともかく今は、制服に皺が付いてしまいますので脱いで下さい。ご入浴の準備もいたします」

「はーい」


 何だかんだセイラは、主である私の方針に従ってくれるらしい。そんな有能なメイドに感謝しつつ、今日の疲れを癒す為にゆっくりとお風呂に入った。




 *




 お風呂から上がりドレッサーの前でセイラに髪を乾かしてもらっている間、「そういえば、」と私は口を開く。


「セイラ、お父様とお母様にハルベルト様との婚約を破棄したいという手紙を送ってくれる?」

「ゴホッゴホッ!」


 あのいつも冷静なセイラが噎せた。大丈夫かと振り返ると、信じられないといった目でこちらをみるセイラと目が合った。


「正気ですかお嬢様。突然、一体どうしてそのようなことを……」

「えぇっと……」


 ハルベルトには既に運命の相手がいて、私は邪魔者になってしまうから?うーん、こんな理由じゃ納得してくれないだろうな。


「……よくよく考えてみたんだけど、私じゃハルベルト様の婚約者は務まらないと思うの。ハルベルト様は素晴らしいお方だから、もっと相応しい人がいると思ったんだよね」

「お、お嬢様がそんなご謙遜なさるなんて……しかし、国中で最もハルベルト様に相応しいご令嬢はリリク様でございます。ハルベルト様もそれをよく分かっていらっしゃるはず。ですから、そのようなことを仰るのは……」

「もちろん私が一番妥当な身分であることは分かってる。でも、この先の未来何が起きるか分からないでしょう?もしかしたら、『聖女』が現れるかもしれない。そうなったら、ハルベルト様と婚約すべきは聖女様だよ」

「た、確かにそうですが……」


 セイラはうーんと考え込んでしまった。そんなに婚約破棄するのが難しい問題なのだろうか。

 そもそも私とハルベルトはそれほど仲が良いという訳でもないし、悪女と結婚せずに済むならハルベルトだって喜んで承諾するだろう。


「お願いセイラ。提案してみるだけでもいいの。お父様とお母様に、私が婚約破棄したいってことだけ知っておいてほしいから」

 胸の前で手を合わせて、上目遣いでセイラを見上げる。セイラはしばらく唸ってから、仕方ないとばかりにコクリと頷いた。


「……わかりました。そのようなことを()()()()()思っている、ということだけ伝えておきます」

「うん、ありがとう」


 ()()()()()じゃなくて、()()()()()思ってるんだけどね。まぁ、今は納得してくれただけ良しとしよう。


 その後セイラは再び冷静な顔つきに戻って、私の髪を拭い始めた。流石私の専属侍女。切り替えの鬼である。


 ──さて、明日からはとうとうゲーム本編の内容が本格的に始まる。明日に備えて、今日はぐっすりと寝よう。


「おやすみなさいませ、お嬢様」

「おやすみなさい、セイラ」


 ベッドに入ると、疲労感のある体はすぐに夢の中へと誘い、私の意識も深い闇の中へと落ちていった。


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