初めての職員室
龍二には上地の姿が見えていたが、他の皆には見えていなかった。
それで嘘つき呼ばわりされ、このままではいじめに発展しかねない!
そこで高岡先生は、龍二を職員室に呼んで事の真相を聞くことになる。
ガラガラー。
「失礼しまーす。高岡先生、おおしろですけどー」
龍二は小さな声で恐る恐る職員室を覗いた。
「はーい、おおしろくん。こっちやこっち、入ってきてやー」
職員室に入ると、高岡は右の奥にいた。
(職員室ってなんかにがてやなぁ)
龍二はぶつぶつ言いながら奥の方へと入っていった。
高岡は悲しそうな目で龍二を見つめている。
「おおしろくん、なんであんな嘘つくんですか?先生にわかるように説明して下さい」
「えっ?ぼ、ぼく嘘つかへんよ・・・。だってほんまに上地くんとあっててんもん・・・。さっき、校門のところにおったやんか。ほんでな、上地くんな、死にたくない死にたくないっていうねんで。そやからな、僕おもいっきり笑ったってん。だっておかしいやん。上地くんめっちゃ元気やってんもん。」
高岡は黙って聞いていた。
「もういいですおおしろくん。先生にはわかりません。先生にはさっぱり意味がわかりません」
「・・・だって」
「だってやありません」
高岡の声は職員室中に鳴り響いた。
まわりの先生たちの声がひそひそ聞こえてきた。
龍二はなんにもいえなくなった。龍二の中では本当にあったことで正直にいってるだけなのである。
高岡がなにをいってるのか龍二にはわからなかった。
(もう私の手におえんなー)
高岡はつぶやいた。
「おおしろくん、今日おおしろくんのお母さんにお話があります。今晩、家にいきます。それでいいですね」
高岡はこれ以上話しても無理だと思い、母親に会うしかないと思った。
(どないしよう・・・。またお母ちゃんにおこられるわ。まっ、いっか!なんとかなるやろ)
龍二は職員室を出ると、校門に向かって歩いていた。
すると
(おおしろくん)
「あっ、上地くん。やっぱりおったんやー」
(しっ)
上地は人差し指を鼻におくようなしぐさでいった。
(おおしろくん静かにして。校門の前にな、まだ木村くんたちおんねん。たぶんおおしろくん待ってるおもうわ)
「げっ、めっちゃやばいやん」
ふたりは逃げるように裏門から出ていった。
「助かったわー、ありがとう上地くん。ほんまええとこに来てくれたで。んっ?それはそうとなんであんときなんで来てくれへんかったんよ?」
(あんときって?)
「あんときやんか。僕がみんなに嘘つき呼ばわりされてるときやん。あんとき来てくれたら僕嘘つき呼ばわりされへんかったおもうわー。なー、なー、上地くんなんで?」
龍二は不思議に思い、問い詰めた。
(・・・・・?でも僕、ずっとベランダにおってんけど・・・)
「な、なんて?上地くん聞こえへん」
すると上地の姿が突然消えた。
「あれっ?上地くん・・・。上地くん・・・」
龍二は上地に聞きたいことがいっぱいあった。東京にいるはずの上地が、なぜ大阪にいたのか、身体をわずらってる上地が、なぜ元気だったのか・・・。
その後、上地は龍二の前に現れることがなかった。
夕方6時
高岡は龍二の家を訪ねた。
高岡は今日の出来事を、ことこまかく母親に説明した。だいたい察しがついていたのか母親はさほど驚かなかった。
というのは、龍二がまだ5歳の時、父親栄二を事故で亡くしている。
その時も、神戸で事故した時間帯に、豊中の自宅前で「父親を見た」という事を思いだしたからだ。
その時は、ただ幻覚でも見たのだろうとまったく気にもとめてなかった。
しかし、母親はその事を高岡に説明できなかった。多分、わかってもらえないだろうと思ったのだろう。このままだといじめの引き金にもなりかねない。
高岡と話し合った結果母親は決心した。生まれ故郷、沖縄今帰仁に帰ろうと決意したのだ。
龍二は2年生の新学期を、沖縄今帰仁の天底小学校で迎えることになった。
龍二は、クラスの子や近所の子にもすぐにとけこんだ。
その頃、大阪豊中のm小学校に高岡あてに一本の電話がなった。
「もしもし、わたくし、先日東京に転校した、上地祐二の母親なんですけども。先日ですね、祐二の病態のことでご連絡させてもらったんですが、おかげ様で持ちなおしましてですね、いまでは大変元気になりまして。で、そのことをご報告させてもらったんです」
「そうですか?それはよかったですね、おめでとうございます」
「ありがとうございます。それでですね、病院の先生には元気になった原因がわからないいうんです。ほんまに奇跡やいわれまして、今はもうとにかくほっとしてます」
「そうなんですか、ほんまによかったですね。私含めてほかの先生方も皆ほっとしてます」
「それでですね、祐二がおかしなことをいいまして、おおしろくんにあって、いっぱいはげまされたというんです。たぶん、夢でも見たと思うのですね。それでですね、元気になったいうことをおおしろくんにお伝え願えたらと思いまして、ご連絡させていただきました。ハイ、それでは失礼いたします」
高岡は言葉にならなかった。もしかして、龍二の言ってたことが本当だったのだろうか。非現実的で、ありえない話だ。しかし、よく考えると龍二が嘘ついてたとは思えない。それにつじつまがあう。そう思うと高岡は頭が真っ白になった。
沖縄ではよくある話らしい。
たとえば、生死の堺をさまよってるとき、生きたいと思う気持ちが強くなり、一番楽しかった場所に魂だけが移動してしまうということが・・・。
そこで上地は、龍二に出会い、そして励まされたのだ。
それにしても、もし、龍二に上地の姿が見えてなかったら上地はどうなってたのだろう。




