見えないものが見えた
龍二は不思議な能力があることをまだ知らない。
物語は大阪から始まる!
― 大阪 ー
「セーフセーーフ。ふー、まにあったーっ。また遅刻するとこやったヮー」
龍二は両手を広げ、セーフのポーズをとった。
『キンコーン、カンコーン』
始業の鐘がなりだした。
「わっ、やばいやばい、キンコンなりだしたで。よーっし、教室まで猛ダッシュやー」
龍二はまた走りだした。
すると
『ざわざわー』
校門の横にある大きな木が急に揺れだした。
(りゅうじくん・・・、りゅうじくん・・・。)
(えっ?誰やねんこんな時に・・・)
龍二はつぶやくと立ち止まった。
(りゅうじくん・・・)
(ほんまに誰やねん。もうっ、遅刻するっちゅうねん)
(りゅうじくん・・・)
「もうほんまにっ、誰なんよ」
龍二は声を張り上げ振り返った。
(りゅうじくん、久しぶりやん)
すると、木の陰から小さな男の子が現れた。
「・・・。う、上地くん?上地くんやん。な、なんで?上地くん東京ちがうん?こないだお別れ会やったばっかりやんか?」
龍二は首を横に傾げながら不思議に思った。
ほんのすこし、上地くんの体が中に浮いてる。しかし龍二は気づいていない。
(・・・・・)
上地は黙ったままだ。
「上地くんどないしたん?」
(・・・・・)
「上地くんどないしたんよ? だまっとってもわかれへんよ」
(・・・りゅうじくん。・・・りゅうじくんは死ぬのってこわい? ぼくな、死ぬかもしれないねん)
上地は消え入りそうな声でいった。
「えっ?突然なんやねん!死ぬって?だって上地くん元気そうやんか」
龍二は笑顔でこたえる。
(僕なぁ、病院の先生にもうあかんっていわれてるねんて。ほんでなー、お父ちゃんお母ちゃん、めっちゃ泣いとってんやんか)
元気なく上地はいった。
「キャハハハハー、なにいうてんねん上地くんおもろいこというなぁ! めっちゃ元気やんか、キャハハハー」
龍二は腹かかえて笑った。
(笑いすぎやってりゅうじくん。僕が死ぬん、そんなにおもろいかー)
上地は消え入りそうな声で言う。
「だからー、死なへんっていうてるやんか! こんなに元気やねんから! だいじょうぶだいじょうぶ―。だいじょうぶやってー」
なんの根拠もないが、ただ龍二はそう思った。
(そうかなぁ、僕大丈夫かなぁ、僕死にたくないなぁ!)
「それそれ、それがあかんねんって上地くん。そやっ、これからどっか遊びにいけへんかー。ぱーっと、ぱーっといこうぱーっと」
(えっ、遊びにいくって?・・・。でもりゅうじくん学校は?もう授業始まるんちゃうん?)
「学校はええねん、学校は・・・。ん?えっ?えーっ学校?あーっ、学校や学校、僕また遅刻やんかー」
龍二は大声で叫んだ。
(あいかわらずやなぁ、りゅうじくん。なんか僕、めっちゃ元気でてきたわ)
「わーっ、上地くんそんなこというてる場合やないって、僕また遅刻やん。また先生にお
こられわー。こ、今度遊びにいこうや、ほんまやで上地くん」
龍二はそういうと教室まで全力で走っていった。
龍二は息をきらしながら教室の戸を一気に開けると、クラス全員が一斉に龍二を見た。
「こらーっ、おおしろくんまた遅刻ですかー。とっくにホームルーム始まってますよー。はよう席つきなさい」
「高岡先生ごめんなさい。ちゃーうねん。僕なー、ちょっと校門のとこでなー、こないだ転校した上地くんおったやんか、そう、上地くんにおうててん。ほんでしゃべっとったらなー」
「嘘いうなーおおしろー。高岡先生、こいつまた嘘ついてんでー。おれ見とってんぞー。おまえひとりやったやんけーっ!」
よりによってクラスで一番うるさい木村に見られていたのだ。
「嘘やないよ。だってなー、さっきまで上地くんとおうてしゃべってたんやもん」
龍二は泣きそうな声でいった。
「ほーらみろ、やっぱり嘘やんけー。おおしろー、おまえひとりでしゃべってたやろう。なーやまだーわたなべー。おまえらもいっしょに見とってんなー」
「そーやそーやー、僕らも見とってんぞー。おまえひとりやったやんけー」
山田と渡辺も口をそろえるようにいった。
すると教室全体が騒がしくなった。
「みんなー静かにー、静かにしなさーい。木村くん静かに、みんなも静かにー」
高岡は大きな声で言うが、まわりはまだざわついている。
「わかりましたー。ほんなら先生からおおしろくんに聞いてみますねー」
「そやそやー、高岡先生びしっと聞いたってやー」
「木村くん、静かにしなさいいうてるでしょう」
「ふん!なんやねん」
木村は納得がいかないようだ。
「おおしろくん、だいたい上地くんは東京にいてるんですよ。わかってますか?みんなも知らないと思いますが、この際やから言うときます。えー、上地くんはですね、今、病気で入院しています。先日ご両親から連絡ありました・・・。」
ざわついていた教室内は急に静まりかえった。
「大変重い病気だそうです。・・・、今いっしょうけんめい病気と闘っています。だから今、上地くんがこっちにいてるわけないんです。おおしろくん、なんか勘違いしてるんやないですか?」
高岡は言うと教室内がまたざわつき始めた。
「先生こそ嘘やで、だって上地くん元気やったもん。さっきまで僕としゃべっとってんから」
龍二は泣きそうな声で訴えた。そして、ちらっと窓の外に目をやった。
「あっ!上地くんや。ほら先生、上地くんいてるやん」
龍二は窓の外を指さした。
「やっぱり嘘つきやー。誰もおれへんやんけー。そんなことありえへんわー。しかもここは二階やで!ほんなら、上地くん空中に浮いてるいうんか?空飛ぶいうんか?そんなんありえんわ~。おおしろー、おまえほんまに嘘つきやなー。ほんま大嘘つきやー、なー、なー、みんなー」
木村はいうと教室はまたざわつき始めた。
龍二が指さした場所をみんな見ている。しかし誰も上地の姿が見えていないようだ。
(なんかようわからんなってきたわ)
高岡は首を傾げた。
「みんなー、静かにー。静かにしてくださーい。わかりましたー。今日の1時間目は自習にしまーす。わかりましたかー。おおしろくん、放課後職員室まできてください。いいですね!」
高岡はいうと教室を出て行った。
(僕、嘘つきでも大嘘つきでもないで。・・・なんでやろう、先生もみんなも嘘つくとはおもわへんし、僕にもようわからへんわ)
龍二はつぶやくと、窓の外をもう一度見た。しかし、上地の姿はもうなかった。




