錆びついた図書の番人
私はそれから離婚した。
25回目の結婚記念日。妻は15年目を最後に、それを祝わなくなった。私から何かをするのも違うかと思った。妻自身がもう愛想を尽かしてやりたく無い可能性だってある。きっとそうだ。
「ごちそうさま」小さく言って、妻と自分の分の洗い物をまとめて洗う。初めは炊事も洗濯もどちらの仕事とも言わずやっていたが、いつのまにかそれは2人で暗黙のバランスゲームとなっていた。やってもらった分別で返す。そうなってから、言葉が減った。
部屋に戻ろう。ふと、机の上の文庫本が目についた。妻が今読んでいる物、ただカバーが付いていて何かは分からない。
自室に戻り、私はデスクに座る。扉はいつも少し開ける。いつもの様に資格勉強のノートと本を開く。そして、ワイヤレスイヤホンを耳につける。
読書が好きだった。子供の独立と共に自由な時間が増え、本を読めると思ったが、既に己の体は読書に対して不向きになっていた。老眼と目の乾燥、ぼやけ。その全てが私の楽しみを邪魔する。
その様な時に、部下の男の子がワイヤレスイヤホンで聞く読書というものを勧めてくれた。これが見事に当たった、それからというもの私はイヤホンをつける時間のために資格勉強を始め、1人の時間を楽しんだ。
妻もまた何かを読んでいる。そのほとんどは料理の時に限られている。だから、多分あれは料理に関するものなのだと思う。
活字が好きだと妻は言っていた。それを主婦という傍らに満たしているのだろう。
『推し』というものから、集団との生き方を見出す。今はそういう内容の本を聞いている。面白い、知りたかった自分の子供の断片が埋まる気がする。
良い気持ちになる。誰かに伝えたいとそう、ふと思う。椅子から立ち上がり、扉のすぐ側まで行く。ノブに触れるとひんやり冷たい。隙間から外が覗ける。
「『6章』」章の開始の読み上げは少し音が大きい。先が気になって、ノブから手を離す。すると、何か背中を押した何かが分からなくなってデスクへと体は引っ張られる。途中振り返り扉を見た。一度、二度。けれど先を歩き、椅子へと腰掛ける。
自分の生き方。頭に浮かんで、耳からの音で消える。下を向き、音の世界に入り込む。




