消えた切符
あれどこにやったっけ。
僕はポケットを弄る。次は◯◯に止まります、終点◯◯に止まります。そうアナウンスが聞こえる。次の目的地への案内が始まり、僕は再度ポケットを弄る。
無い、ポケットの中に入れたはずの切符が無かった。
ポケットを何度かバタバタとする。狭苦しい車内で目だけで左右を確かめる。無い、どこにも無い。指先をポケット内部に這わせる、内部の凹凸に引っかかって出てこない可能性がある。僕は指を使って探る。けれど、出てくるのは挟まった埃の塊ばかり。
無い、これはポケットには無い。汗腺から汗が滲む。背後からの朝日が熱を帯びて僕を照らす。室内クーラーとせめぎ合う。
カバンの中か。同時に予約した昼食のレストランの時間を思い出す。後に続く、映画の上映時間、午後の休憩場所。格好つけない無いと。やばい、巡るな、焦るから。目の前のカバンの中の暗闇を覗かないと。
切符の背面は黒く。その中にあっても目視ではわからないかも知れない。人混みの車内、僕は小さな動きでカバンを膝の上で弄る。まるで自然にただAirPodsでも探すみたいな動きで。心だけが揺さぶられる。目は泳ぎ、汗が出る。
箱の速度は徐々に遅くなる。終点◯◯です。速度がゼロになる。
ピンコーン、ピンコーン。呑気な音に扉が反応する。僕は立ち上がり弄りながら、自分の席を見直す。無い。どこにも。駅に降りて、息を吸う。
「すみません。切符無くしまして」
「……」
「……」
「はい」目の前に切符が現れる。
「ポケットとか探してるなと思ったけど、それを探していたのか」
「あれ?」
「持ってたよ、私が」
記憶がぶわりと思い出されて、安心して尚も汗腺は急く。彼女がいた、僕が格好つけたい唯一の彼女が。
「大丈夫、ほら、行こ。時間に遅れちゃう」彼女は僕の手を引いた。しっかりとした握り込みに僕は弱々しい。
僕はその背中と自分の手を見て、少しでも強く手を握り返した。隣に歩く人、僕が格好つけたい人。
「そういえば、映画のチケットはちゃんと持って来た?」
言葉が耳に入る。僕の汗腺は再び稼働する。




