裂けた地図
不吉な日だ。
「あー破れちゃった。なんだろこれ。やばいやつだったら怒られるな」
私はそんなことを考えながら、家の片付け。祖父が亡くなり、祖母が老人ホームに入って、世帯の数が減った。祖父母がいた空間というのをデッドスペースにしておくほど、私の父母は活気が劣ってはいない。
引き出しの隙間に挟まっていた一枚の紙を無理やり取り出した挙句、私はそれを破ってしまった様だった。「やっちまった」と思う、声にも出た。
「何どうしたの?」母が声に釣られてやって来る。
「これ破いちゃったみたい」
「何これ、あぁ地図かこれ。どこのだろう」印刷の色がかなり褪せていて等高線の境目も目を凝らさないと見えないほどその地図は傷んでいた。
「角のところに何か書いてあるよ、長野県、槍ヶ岳」
「お爺ちゃんとお婆ちゃんのやつね。60年代の登山ブームの時の、2人とも運動好きだったし。あ、ここにお婆ちゃんの名前が書いてある」
「うわ、なんか不吉だな。お婆ちゃん大丈夫だろうか」私は破れてしまった地図に何か怖いものを感じる。
「大丈夫よ。そんな事で何も変わりはしないって、ほらここを見て、破れてもどちらかは山頂に繋がっているでしょう。道が変わって少しお婆ちゃんは遠回りをするの、山頂で先に待ってるお爺ちゃんには待ってもらってね」
「そうだね、待ってもらおう。お爺ちゃんもしかしたら麓で待ってるかもよ。あったかくして」
「それは良い。お婆ちゃんには存分に長生きしてもらって、帰り道もゆっくり進んでもらおう」
母は私を撫でる。ガシガシと撫でて、抱きしめられた。同じ日でも暖かい、そんな日。




