88/93
曲がった信号機
風が吹く。極めて強い風、今年1番の台風が本州全域を襲っていた。私の家も無論、暴風に苛まれている。隙間風が実家に入り込む、大声で挨拶して入ってきて、知らぬ間に消えている。
2階から窓を見ると、家の裏に流れる川はいつもより5倍は水かさを増し、信号機は曲がっている。近くにある異次元。こんなことに笑っていられる年齢は当に過ぎてしまった。
「『写真を送信しました』。見るからに凄いでしょう、これは」私は暗い部屋の中、掛け布団にくるまりながらLINEで彼氏に写真を送る。
こんな時でも道を通る車がある。信号機は曲がっていて、見えもしないのにどうやってあの十字路を渡れよう。と言っている間に、すっと直進して行ってしまった。
「ありゃ、いけないんだ。あれも撮ろ」
パシャリ。撮って写真をまた送信した。私ならあの道を通ることが出来るだろうか。水かさが増して、橋のぎりぎりの高さまで水が来ている。暴風は車体を横に大きく揺らすだろう。
「ねぇ、彼氏、わたしはあの十字路を越えれるだろうか」
LINEの画面だけが暗い部屋に浮かぶ。
ねぇ、あなたは今どこを向いているのでしょうか。どんな表情をしているのでしょうか。言葉は喉に出かかりUターンする。




