焼けた白い鳩
『井戸に願いを』白雪姫は井戸の中に愛する人との出会いを願う。私は井戸の中に映る自分の姿がやけに不細工に見える。日焼けした肌、白とは無縁で。
可愛くない。田舎の風景の中に広がる雄大な緑は風に揺れる、否定も肯定もない。広く広く風を受け止める。
井戸はあるけれど、どことなく白雪姫に出てくる様なおしゃれなものではないし、小鳥は囀らない。白い鳩よりもキジバト、可愛くないし、見たくもない。
私は都会に行きたいとは思わない。なんか、そうなんだか。私は自分の肌を見る。あーと声を出し、考えを巡らせてから、私は井戸の水を引き上げる。それを桶に入った水を手で掬い少し口に含める。
美味しい。
「お母さん、水とってきたよ」
「ありがとう、そこ置いておいて」母に促されて三和土からすぐの流し台の横に手を伸ばして置く。
「なぁ、お母さんって都会から来たんやろ?」
「うん、都会って言っても大阪やけどね」
「十分、都会や。まえ、あべのハルカス見に行ったけど高くて首痛めるかと思ったもん」
母は笑う。
「都会に興味あるの?」
「ない」
「ふーん」
「何?」
「何もないけど〜」
母は昼ごはんを用意しながら口元を緩めてまたよく微笑んでいる。私はその表情から目を逸らす。
「私は仕事でこっち来て、お父さんに出会ったよ」
「え?」
「都会とか、田舎とか分からへんよ。私はただその井戸の水の冷たさとそれをくれた男の人がよく見えたんよ」母はまた微笑んでいた。
母もまた肌は日によく焼けている。私は母が好きだけれど、その肌が白の時があっただろう事に私は無性に興味を持つ。
外にキジバトが飛ぶ。見てやるくらいならいい、と夏手前。




