夕立の後水たまり
この雨では帰るに帰れない。そう思っていた、放課後の私は夕日の照る外を眺めて、唇を尖らせていた。先ほどまではあった暗い廊下の中の雰囲気はさながら洞窟。湿気と迎えない孤独と小さなワクワクが胸に広がっていた。
男子テニス部は廊下に寝そべって練習前の筋トレをしていた。そこにいる一つの顔を見て、引き返す。目でも合いそうだった、火照る。
「あれ、ミクちゃんトイレ行かなかったの?」
「やっぱりこっちの手洗いに行こうかと思って」
「あそ」声をかけてきた友達は何の疑いもなく、教室で勉学に励み直す。
手洗いを済まして、私もまた教室に戻り先ほどの友達の近くに座る。隣の席に座ろうとしたが、誰の席か思い出して辞める。後ろの席、それがいい。
「ミクー。雨、後ちょっとで止むらしいよ」
「嘘だー、だってまだ空真っ暗だよ」
「全部流れるんだって、知らないけど」
確かにこの一体を包み込んだ大きな雨雲は30分もすれば流れていくらしい、雨雲レーダーはそう指し示す。
一部の男子達はこの大雨に部活が無くなったことを喜んでいる。帰れないけれど、することもないこの時間はモラトリアムの間隙とでも言えるような確かに気分の高揚する時間。唇がやけに浮つく。
「あれ、鈴木さん。帰ってないの?」突然、声が聞こえた。男の子。
「うん、雨がすごいから。すぐに止むらしいよ。30分後」
「そうなんだ。なんか今楽しいのに、終わるのか。お疲れさま、鈴木さん」
「お疲れさま」
男子が行ってしまう。友達の隣の席の男の子。
「ミク、あいつと仲良かったっけ?」
「別に、ちゃんと話したの初めてくらい?」
「へぇー、好きなんじゃ?」
「いや、別にそんなのじゃないよ、別に!」
「あいつがだよ。あいつから声かけたんじゃん」
思い出して、唇がこそばゆくなる。夕日の照らす私の唇が暖かい。校庭には水たまりがいくつもあるが、その一つが沈む太陽に照らされて、徐々に暗くなっていく。
雨と太陽。一瞬だけすれ違って無くなる。それを最後まで見届けて、私は窓辺を離れる。
「ミク、やっぱりーあいつのこと」
「うるさー、暗くなる前に帰るよ」




