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約500文字の毎日  作者: 端役 あるく


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濡れた地下道の壁画


 地下道に人工的な毛布が転がる。それにオイルランプ、ところどころ破れた枕型の固形、小さな植木用のポットに入れられたカポック。


「ここは?」私が聞く。


「私もただの市役所職員なので詳しくはないですが、防空壕として掘られていた地下道を舗装して利用しようとしましたが、上下水道が他で有用なものが出来ていたみたいで」


 頓挫した。綺麗とまでは言えないが明らかな人の手の入った空洞。そこに人が住んでいた痕跡。


「絵を描いていたそうです」


 私は壁を見る。少し触れてその粉末のつくのを指に纏わせる。


「ここに住んでいたのは1人の男。この湿気た空洞の中で彼は少しの食料を日々取りながら、小さな鉢のカポックをたまに外に出して、絵を描いていたそうです」


 私はもう一度瞬きしてから壁を見上げた。石壁。紙に書いていた可能性もあった、木板でも、拾ってきた机のいたでも良かっただろう。けれど私は無意識的にそう思った、そこなのだと。


「まぁ、彼が何を書いていたのか今となっては分かりませんが。何せ、もうその全てを削り消してしまったのですからね。どう見られるのかを必要としなかった」


「そうですね」


「それは、生き方を見つけたとか」


「……」


「それで、あなたは自分のことを何と仰りましたかね」


「大学生です。ただの」


「なるほど、では私は先に帰ります。帰りの道のりは分かるでしょう。島にはもっと色々な見所があります。何かに拘ることなくとも」


 振り返らない背中、私はそれからさっと目を逸らす。ここにきた経緯を思い出す。


 ヒッチハイク同好会。ある大学のそれに引き寄せられた私はある島へと辿り着いていた。北にも南にも、どことも絞らず。


 何も知らぬこの洞穴の彼をどう思うか。私はそこへ座り込んだ。カポックと共に息を吸って、外に見える青い空を見る。


 ふと思う。世界は広がっていることを知っているのに、窓枠をつけた様な空を見て一筋が決められているのを。


 カポックは長い時間を経て光の方向に枝を伸ばしている。私はそれを見て笑む。


 砂利を踏んでいた掌の痛みは強く鋭い。けれど立ち上がる。力を込めて。

 

 

 

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