ひび割れた歩道橋の手すり
まさかとは思うけれど、僕の前には歩道橋を渡ろうとする、おばあちゃんが階段の前で四苦八苦していた。風呂敷包みのありがちな重い荷物を背負って。
歩道橋は長い雨で錆びていて塗装がパリパリと剥がれている。掴むのは、酷に見える。
深夜、天気は晴れ。スマホはそんな状況を淡々と伝える。少しそのままスマホを触り、前を見る。
「おばあちゃん、大丈夫ですか?」
「え?」遠い耳に僕の言葉は小さく。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、うん、大丈夫、大丈夫」そう言って、おばあちゃんは一歩を踏み出した。
「どこに向かってるんですか?」
「娘がね、ご飯が作れないって言って連絡があったんだ。だから作りに行くんだ」
「こんな時間に?」僕はおばあちゃんに手を貸すことは無いが離れるのも出来なかった。
「何時でも行くよ」しれっとおばあちゃんは言う。そんな人の背中はやけに虚げで薄い。
「僕は寝起きの人に会いたく無いんです」何故か、僕は心境を吐露する。
「どうして」
「ほら、寝起きって何も意思も強がりも無いみたいな、その人の1番素の姿な気がするんですよ」
「それをあんたは見たくないと?」
「見たくないですね」
「夜になればなるほど、その人がなりたい姿になっているとも思います」
「ふむ」おばあちゃんはまた静かに言葉を切った。
「おばあちゃん」
「ん?」
「僕のこと分かる?」
「いや、分からない」
「そうですか」
深夜、僕はおばあちゃんが歩くのを補助する。おばあちゃんは娘の元に向かう。2人ともなりたい自分がその場にあるのに、下を見てそっとLINEを開く。
『お父さん、お母さんへ。おばあちゃん、居ました。一丁目の十字路、高架橋の上』家族LINE。




