雪明かりの閉じられた熱
「夜は寒いね」と座り込む私。
「寒い」と横にいる妹。
「帰る?」
「帰る、一回」
私は妹の靴を地面にバンバンとぶつける様にして、靴底の隙間に入っている雪を取り除く。バタバタと妹は家の中に入り込む、母と父は一階の居間に降りてきていて、杖を端に置いた祖母と共に円形のガスファンヒーターの周りを囲んでいた。
その円に私も妹も走る。普段は2階のリビングにいる父母の和んだ笑顔がその時は何よりも目についた。
「かまくらは出来たかい?」と父は言う。
「何とか出来たよ。裏道の雪まで大量に運んだ」おかげで服はびしょびしょになった。防水だから体は冷えないけれど、残る水滴にぞっとする。
「まだ外に出る?出ないならタオルで体拭いときな」と母。
「まだ遊ぶ。明日になったら無くなってるかもだし」妹は無邪気に言う。
「お姉ちゃんも遊ぶでしょ?」
「どうしようかな」
私は雪明かりの外を眺める。滅多に積もらない雪、母もまたこの雪に心が緩んでいるのだろうか。夜という非常時でも許された外出、胸が高鳴る。
私はガスファンヒーターの熱を感じる。居間の閉じられた熱。
私は皆の顔を雪景色を観る傍目で見た。その熱を私は何よりも。
「お姉ちゃん、どうするの?」
私は父母の顔を見る。2人は立っていて、祖母と反対側にいる。父母の顔、祖母の顔、燃えるように繰り返し、じっくりと熱が染み入る。
「行く」
「お姉ちゃん、行く?」
「行きたい、みんなで行きたい。かまくらの中にこれ運んでさ。みんなで中であったまろうよ」
父母は互いの顔を見合わせる。母が言葉を私に向ける。
「でもおばあちゃんは……」
「分かった、行こうかい」震える杖をもつ祖母は立ち上がる。「待って、手伝います」母は紐で引っ張られたかの様に体が動いて祖母を支えて歩き始める。
父はその2人の後ろ姿を見てから私を見る。それからガスファンヒーターをかまくらへと運び始めた。
「行こう、お姉ちゃん」妹は私の手を引っ張った。ずっ、バタバタと飛び出る2人。玄関口、小さな鏡が見えた。そこには、飛び出た熱が頬を真っ赤に染め上げている私が見えた。
雪明かりはそれを隠せるだろうか。分からないが、あのかまくらの中だけはその熱は隠せそうだと思った。




