夕暮れ時水族館の非常口
私はなんでこんな所に来てるんだっけ。そんな風なことを思いながら、目の前にはイワシの群れが右へ左へ走る。私はぼんやりとそれを見ていたが、それを見ていると認識した時、その場からそそくさと去った。
魚っていうのは、随分と虚な目をしているなと、私は考えていた。閉じる事もない黒い眼が頭蓋骨に埋め込まれている。
「見つめてくるな、魚ども」夕暮れ時に人はほとんどいない。声は私だけが聞いている。
今日は日曜日だ。明日は仕事がある。それなのに何故、私はここへ来ているのだろうか。北に西に数百キロ。新幹線でも2時間。
「何をやってるのか、私は」目の前の貝たちは私を見つめる事がない。言葉にも何にも反応はせず、ただ呼吸をしている。ここが良い。多分、1番。
魚は随分と速いな。対して、貝はすごく遅い。魚ならともすれば一晩中泳ぎ続ければ東の湾口にまで泳ぎ付けるのかもしれない。考えながら、私は貝を見る。
この部屋は暗くて、静かだ。私の体は椅子にある。貝類の様にぐっと。
その時、私は暗闇の中に緑のぼんやりとした光を見つける。
非常口。走る人型。
ここは私が見つけた。最良の場所である。そこに緑の光がある。
ここからどこへ逃げると言うのだろうか。何故、逃げる必要があるのだろうか。私はそれらに震え始める。地震のように水面が揺れ、呼吸が乱れて、音が間違いを伝える。
落ち着こうと息をして周りを見つめるが、椅子の足が一本折れる。床はぐったりと傾き、照明は強く明滅する。貝たちは開閉し目を伸ばす。
さっと音がなくなり、私は青い顔で走り去る。ずっと、ずっと走る。
南東の電車。行き先など見ずに私は乗り込む。車窓からは水平線に逃げ込む夕陽が見えた。




