霧深い橋の音
僕は走る。朝靄の中、タッタッと足音を上げながら。痛む腕、腹、何かから逃げるみたいに。
未だ朝は芯を冷やすような温度で体を責める。冷たい空気が気管を刺激する。短い一周も三周を目標にすると刺激は過激になる。それでも僕は走る。
体が熱くなる。頬を液体が伝う。
「体力が足りないんじゃないか?」先輩が僕の背中を叩いて言った。僕の座る椅子がタイヤでもってデスクにぶつかる。腕と腹部を打する。
「はは、そうですよね」
「ランニング、した方がいいぞ。体力をつけないとやっていけないぞ、これから」先輩は僕の背中をまた叩いた。それからまた3度、バシバシと背中を叩く。その音と先輩の笑い声。デスクの上の置き時計が倒れる、時刻は22時を指す。
目が覚める朝。僕はキッパリと諦めるように覚める目に感情を置くことはなく、体を起こす。そして、ランニングの準備をする。
体力をつけなければいけない。先輩の声で僕はその思いを心に再生する。
湖を一周するランニングコース。こんなにいい空気感が漂っているのに、僕の他にはここを利用する人はこの時間いない。一人だ。
一周、二周、そして三周目。息が上がる。足はもつれそうになる程、棒になって。
僕は走る。体力をつけなければいけないから。走る、走る。三周、今日も走り抜ける。ゴール、橋の上、停止した体はやけに熱をかっかっと盛り上げる。
タオルで湧き出る汗を拭く。腕に、足に頭に顔に。
どうしたものか、頬に液体がどんどんと流れる。タオル一枚ではどうにも足らないくらい。
「体力をつけろ」頭の中に音が反射する。止まった頭に言葉が入り込んでくる。橋の上、僕は音から逃げ惑うように耳をタオルで塞ぐ。
内側から無音の声が出る。うずくまって、小さくなって、しゃがんで、気づけばいつからか涙も止めどなく。ーーー。
「体力をつけろ」「体力をつけろ」「体力を」




