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約500文字の毎日  作者: 端役 あるく


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ほどけない靴紐の朝


 全身が下方向に落ちようとするのに僕は抵抗しながら、ベッドから脱出する。手で踏ん張って体を持ち上げて、左足を地面へとつける。


 ぐっと力を込めると痛みが電光のように走り抜ける。力が抜ける感覚、しかし力が入らなくても骨と筋がそれ相応の形にあれば立つのに問題はない。


 痺れに近い。正座はよくするのだけれどそれと似ている。


「起きたの?」妻の声。


「うん、流石に起きるよ」時計を指差す僕を妻は目で追う。時刻は午前11時。


「私はまだ寝たい気分」


「寝てても良いよ」


「いんや、起きてる」


 そう、と返して僕は笑う。今日は昨日とよく繋がった日に感じる。こう言う日というのは、人生において健やかで幸せな日である感覚である。


 逆に明日と繋がる今日というのは億劫な日だ。


「昼ご飯、何か用意する?」


「予定はまだ無いなー。買ってこようか?」


「僕、今から行くけど」


「じゃあ、私も行く。ちょっと着替える」


 僕は妻の背中を見送って、先に玄関へと向かう。明かりをつけると靴が見える。土汚れのついた蛍光色のランニングシューズ。空色と黄緑色、2足。


 僕は黄緑色に足を入れようとするが、するっと入らない。きつく紐が結ばれているのだ。


 昨日、子供みたいに無理やり脱ぎ捨てた証拠。


 21kmハーフマラソン。言葉が浮かぶ。


 僕は靴箱から埃の被ったサンダルを取り出す。


「それ履いていくの?」


「うん、解けないんだ靴紐が」


「なるほど」言って、妻も後ろから自分のサンダルへと足を入れる。


 靴紐、今日だけは解けない。昨日と今日を結んでいる、そう思うから。

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