沈みきらない夕焼けの水面
「卒業だね」横の友達が言った。私は声に引かれて彼女の顔を見て、その目が私ではなく夕陽に向かっているのを知る。
「だね」
学校の校舎から望む夕陽の光は校舎裏に流れる河川に落ちていく。川幅の広いこの河川は全てに繋がっている。
「ねぇ、私たちみたいじゃない?」
「何が?」
「夕陽。ずっと見てると、ずっと沈まないみたい」
私は彼女の言葉を聞いて、顔を見ようとする。キーンコーンカーンコーン、校舎に音が響く。いつもより、すっからかんの校舎は音をよく響かせている。
「沈んだら暗くなっちゃうね」私が慌てて返す。
「暗くなっちゃうね。早く帰らないとお母さんが心配しちゃう」
ずっと夕陽を見ている。
「アキレスと亀。追いつかなければ良い」
私は彼女の言葉に返す言葉が見つからない。沈みゆく太陽と水面。そのアキレスと亀との間に言葉を差し込む彼女は時間を圧縮しようとしている。
夕陽と水面は距離を短く、音が響く。
「私のこと好き?」友達が言った。
「なんで?」
「いや、夕陽と水面が触れ合いそうで」
「……触れ合ったら、暗くなっちゃうよ」
「すぐじゃあ無いでしょ」
友達は触れ合う瞬間を待っていたのだろう。本当に暗くなるのかを確かめたいと思っていたのかもしれない。私は彼女を見ている。彼女は夕陽と水面の隙間を見つめる。
そう、夕陽が沈んだら……。




