割れた鏡の待ち合わせ
「今どこにいる?」額に滲む汗。上がる息。私は声を出す。
「どこって駅に来てるよ。駅の構内にあるコンビニにいる」
目の前にひかる緑の光。コンビニの光。コンビニ内に彼氏がいるのだとすれば、じゃあ、すぐそこにいるはずである。
「いらっしゃいませー」という呑気な声は私の頭に届かない。動きに空気が追いつかない。雑誌、日用品、機械類、乾物、乾麺、お菓子、酒類、食品、そして奥の食品。
「どこ?」私は突き当たりにある鏡を見る。私が見える。
「……」
なぜ言葉が聞こえない、なぜ言葉を発さない?私は思うが、目の前にある鏡の私を見て、少し落ち着く。突き当たりの鏡は手洗い場のもので、その右にはトイレがある。
「トイレにいる?」淡い期待に言葉を作る。
「いない。普通に雑誌コーナーで本読んでるよ」
雑誌コーナー、そこにはいなかった、確かめた。
「いないよ」
「いるって、北口のコンビニだよ?」
北口。私がいるのは南口である。色々と思いながらも、私はもう一度鏡の私を見て落ち着き、走り出す。
駅の構内、中央には鏡を複雑に組み上げたオブジェがある。私はそこまでたどり着いたところで下を向いて、手を膝につく。
鏡は私を写す。色々な面に色々な顔の私。向こうから彼氏が来ているのが見えた。
私はコツコツとヒールを鳴らして近づく。そして、相対する。
「北口なら言っ……」
「別れ話だろ。お前が会って話したいって言ったんだ」
心が割れかける。
「別れたくない」
「別れる。会わなかったら、良かったと今も思ってる」
「お金返すから」
彼氏の顔は崩れる。崩れて、暗闇で見えない。だから、私はオブジェを見る。鏡に写る彼の姿を見る。されど私には見つけられない、私ばかりが写る。
私は彼と共に写らない。ビシリと割れた。私がもう1人見える。それもまた共には写らない。




