裏返された写真の理由
壁に刺さる押しピン。ピンの色が赤だった。
薄いバンドのポスターの上にさえ塊のほこりが積もる、好きなバンドのポスターを昔はよく見てはその音楽をイヤホンから聞いた。
そこを毎日見ていたけれど、だからこそそれを巡ろうなどと思ったことが無かった。そのポスターの後ろには赤色の押しピンが出ていた。一枚の写真を裏返しに貫いて。
「母さん、これ知ってる?」廊下を挟んで向かいの部屋の母親へと声を飛ばす。
「何のことー?」
「このピン、と写真。壁のやつ」
「さぁ、知らない。でも昔の写真ならあたしが全部まとめて片付けてあるわよ。そうじゃないならあんたが知ってるでしょ」
いや、知らない。というより覚えていない。写真もその写真のど真ん中を貫く真っ赤なピンも。
それが何かは分からない。でも分かることもある、あれは過去だ。ここへ住んでいた中学時代までの過去である。そして、およそ昔、向き合わないと決めた過去である。
年月の劣化はポスターをピンへと押し付けてその自分の隠した過去を今へと近づけた。
俺はその赤に信号機をイメージする。嫌な汗が流れる。
今なら大丈夫だろうか、しかしそれを妨げる赤色なのだろうか。過去の自分に聞きたい、その意味を避けてそれでいて、それをただ後ろ向きに見えなくした意味を。
突如として、自分の体はバンドのステッカーでギラギラと装飾されたタンスをずらして、新たな白い壁を露出させると、その裏返しの写真をピンごと引き抜いて壁に突き刺した。そしてタンスで封をした。
過去の行動。理由など、いらない。今見てもどうせ嫌な気持ちになるのだ。
分からないが、毎日のように見たバンドのポスターはまだ好きだった。
避けろ、絶対的に避けろ。真っ赤なそれを見て見ぬふりをして。それでいてあることを知っていろ。真っ赤がまたタンスの裏から睨む。いつかタンスが倒れるだろう。バンドを嫌うことになるだろう。その時に見よう。
ピンの色ぐらいなら変わっているだろう。




