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約500文字の毎日  作者: 端役 あるく


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ひび割れた石鹸の記憶


 静かな実家。玄関を開ければリビングが廊下越しに見える。記憶の中のそれは夕暮れが溶け込んだ壁とフローリング。


 四つ足の机にもたれかかって宿題をやる弟がぐわーっと声を出す。それを見て母が「机に乗らない!」と声を荒げる。


 靴を見る。3つ。父はまだ帰ってきてはいない。今日もどうやら遅いらしい事を確認して、私はローファーを脱ぎ捨てる。


「ただいま」静かな空間に声が響き、無くなる。部屋は記憶の中よりもずっと片付いていて、終わったんだなって感じる。


 弟、本当に仕事が早いな。ほとんど私なんてする事が無い。実家暮らしが長かった彼故か、私への優しさ故か。


 小学校の時に作った陶芸の花瓶。今は水も入っていなければ、花も無い。片付けたのだろう。匂いを嗅ぐと、カスミソウの香りがした。季節から想像した、多分気のせい。


 そういえば、あれも残ってるかな。体がふわりと体重をなくして踵を返す。向かったのは洗面室だった。壁に木の入れ物がある。


 私はそれに近づく。花が咲いていた。


 花にしては異様な水色を放つそれは、埃は積もらず少しひび割れていた。


 ソープフラワー、私が母の誕生日に送ったもの。10年以上は経っていたからもう香りはほとんどしないが、私は残されたそれをそれでも嗅ぐ。


 ひび割れた隙間にはこの空間の湿気を乗せた空気が入り込んでいる。想像して、思いがせり出す。


 それでも、私はずっとそれを嗅いだ。薄らと残る甘い匂い。触れたくなるが、動かすと壊れてしまう。嗅ぐ、止まれない。


 もうそこに無く、そこにしか居られないもの。


 ひび割れにこの場所を匂う。部屋に湿気が増す。ソープフラワーに湿気は悪いのに。私にはどうにも止められない。

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