割れないコップ
私は湯気の立つプラスチックのコップを両手に握り込む。
「何飲んでるの?」彼が私に聞く。
「コーヒーだよ。結構深煎りの粉らしくて苦いけど、淹れようか?」
「うん、お願いする」そういう彼は食器棚から陶器のマグカップを一つ取り出す。私は椅子から立ち上がると、そのマグを彼の手から受け取る。マグには金色の線が継ないである。
インスタントのコーヒー粉をカップに貯める。
「このマグカップずっと使ってるね?」
「そうかな。大学の3年の時にもらってからだから、まだ5年くらいじゃない」
「長いじゃん」マグの中にお湯を注ぐ。
「新しいの買ってあげようか?」
「いや、大丈夫」マグを受け取る。彼の顔には柔和が浮かぶ。
「金継ぎ出来るの?」
「いや、出来ない。これをしたのは僕じゃないんだ」コーヒーを見つめて、少し飲む。熱に怯えて、恐る恐るといった様に。
「じゃあ尚更新しいの買った方が良いんじゃないの。ほら、なんかコップって恋人があげるのが自然じゃん?」
「まぁ、そうだね。確かに自然だと思う」
私は少しだけコーヒーを飲む。口に苦味が広がる。
「そもそも、私のこのコップだってあなたがくれたんだし」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
「……そうか」そう彼は言って、コーヒーを啜り始める、心底大事そうに。手には金継ぎの入った陶器のマグカップ。
私も彼に合わせてコーヒーを飲む。大きくグイッと。プラスチック製の割れないカップで。
苦い。




