帰らないエレベーター
「もういい、知らない」私は血の気が湧いた頭を冷ますことなく立ち上がり、スタスタと玄関へと向かう。
「ちょっと待って。話し合おう、そうでもしなくちゃ」
玄関に小さな鏡が立てかけてある。そこに映る私の姿はまさに小さな鬼の様だった。可愛げもなく、儚げもない。ただ金棒を振り回すだけの。
私は玄関で横目に彼の姿を見る。顔を見る。冷静で疲れ、青い。
私は彼の言葉に静止しない。頭によぎる冷める気持ちを無視する。私は今日すこぶる機嫌が悪いのだ。それはそういう仕方がない日だから私は悪いわけではない、私を怒らせた彼の方が悪いのだ。いつもなら我慢している、出来ている多分。
小さなミスをする彼が悪い。気に触る彼の行動が悪い。同じ人間ではないのだから理解できない部分があるのは当然だ。悪いのは彼だ。
そうやって私はカツカツと靴を余計に鳴らして、廊下を進む。エレベーターのボタンを押す。何度も何度も押す、考えが変な方向に巡らない様に。
少し待ってからエレベーターが到着する。開き、後ろを少し気にして乗り込む。一階へと降りていく。オレンジ色の光。壁にもたれかかる私。
一階へ到着して降りる。
エレベーターを振り返る。オレンジの光を見つめ過ぎたのか、視界の中に補色の青がパチパチと映る。
青。彼の顔。
私はエレベーターを見続ける。ずっと青は消えず。帰れ、エレベーター。




