二つある影
夕闇に2人、手を繋ぎながら川の堤防を歩く。河川敷に鷺が1匹、水を浴びるのが見える。
「今日、楽しかったね」彼女が俺に声をかける。
「あぁ」とそっけなく。
2人を写す影が右側に伸びる。
「これもありがとう」彼女は手に持っている紙袋をひょいと持ち上げて示す。
「私、今日で25歳になったんだね。ははっ、アラサーの仲間入りだ」
「俺は4年前からアラサーだったよ」
「2人とも出会った時から時間が経ったね。すごく」
その時、跨川橋に電車が走る。風と音が2人の発する音を無かったことにしていく。影もまた電車に乗り込む。すぐに降りるけれど。
「ここ左に行くんだよね」
「そう、この線路を辿っていけば駅に着くよ」
左折をすると景色は一気に路地へと変わる。コンクリートの壁、絡まる様に見える電線、電柱。鴉。
彼女の歩く速さが徐々に落ちていく。影もまたぐっと長さを伸ばして。2人はまだ手を繋いでいたが、次第に緩くなる。そして、離れる。
2人ともゆっくりと進む。
「ねぇ、どう考えてる。これからのこと」彼女の言葉。鴉も電車も居なくなる。
彼女の影は一軒家の大きな影に収まって見えない。俺の影は長く伸びていく。
口を開けて、返答する。
「とりあえず、歩かないと電車に遅れるよ」俺は彼女の手を取り、引っ張り出す。影はまた自由になって伸びる。




