雨宿りの嘘
「うちで犬は飼えない。そうだよね?」私は20年寄り添った妻に問いかける。
「そうね、そんな余裕ないわ」優しい声での返答が聞こえる。
私は少しばかり目を落とす。
「何、飼いたくなったの?」
「いや、聞きたかっただけ。僕らに飼う余裕がないって言う事を」弱く言葉を使う。
「話して……」
妻の言葉がどんな表情から出ているのか気になり、一瞥する。少し微笑む、私。
「今日は雨が降っただろう。皆にとって突然の雨。だから、私が雨宿りをした寂れた駄菓子屋の軒先には私と子犬が偶然に寄った」
私は仕事の帰りで、首にストール、チェスターコート、スーツを着込んでいた。子犬は服を着ていた。季節の割に露出が多かった。
軒先の空間は通り雨をやり過ごすには良い場所だった。狭くも無く広くもない。子犬は雨ばかりを見る。私は子犬を観察するばかりだった。
まだ人間年齢で言えば10歳ほどに見えた。それでいて似つかわしくない黒い目をしていた。子犬は体を震わせていた。肌にはあざが見てとれた。
通り雨はひどく短い。5分もすれば打って変わって、雨は控えめになった。子犬はずっと雨を見ていた。
そうこうしている内に、子犬は動き出す。靴を地面に打つ。その後すぐに二足歩行の子犬は弱くなった雨にかけていった。
私は弱くなったと言えど降る雨に手の先が触れた瞬間に体が止まった。冷たく、気持ち悪いがある事が、その弱った背中を追う力を霧散させた。
妻はそっと私の手を握った。無意識に私から伸ばしていた様だった。
妻は何も言わない。善し悪しも無く、ただ優しく握りしめる。
その時、通り雨はまた降り始めた。




