留守番電話の点滅
良いじゃないか。人生で一度くらいあったって良いじゃないか。
暗闇で私は三角座りをして、彼からであろう電話を無視した。固定電話が振動する。プルプルと私に甘えて来ている様に見える。
「電話は必ず出ろ」
「3コール以内に」
この2つのルールを彼が提示して来た時、私はすっとそれを飲み込んだ。でも失敗だった。
それは最初のルールだった。来いと呼ばれればどんな状態でも馳せる、買って来てと言われれば何でも買ってくる。
でも本当に彼は酷いのだ。写真を嫌い、動画も嫌がる。食事中にインスタにあげる写真を撮るからとレンズを見せた時には発狂したみたいに怒った。
でも彼は悪い人では無いのだ。怒るけれど暴力を振るうわけでも無いし、束縛だって、自分の自信の無さがそう言うふうに露見しているだけなのだ。可愛いでは無いか。
私は暗闇でニンマリする。
電話に出なかった私に対して、彼ならどうするだろうか。
固定電話は鳴り止んでから、赤い点滅をゆっくりと起こす様になった。取ってと泣いているみたい。
留守番電話の点滅が続く。私はゆっくりと腰を上げて、受話器を持ち上げる。
当てた耳に劈く声が雪崩の様に押し寄せる。
音が無くなる。部屋に1人だと浮き彫りにされる、静かにじっくり。
もう一度再生、彼の声。うん。
良いじゃないか。人生で一度くらいあったって良いじゃないか。
私はニンマリする。




