冷めた味噌汁
「いつ一緒に住めるかって聞かれても、はっきり答えるのは難しいよ」俺は彼女に答える。
「でも、そうやっていつもはぐらかすだけじゃん」
「……」
「まさか継ぐなんて言わないよね」
「大丈夫、ちゃんとそっちに帰るよ」
出発の警笛が聞こえて、俺は言葉を無理くり作り上げて、電話を切った。
車窓からはよく見た景色が走る。実家に帰る際はいつもこの線を使う。無論、田舎町だから一本の他は通っていないからではあるが。
俺は深く景色を眺める。暗く煌めく米の畑、川の流れを。
駅から市内バスに乗り換え、それを降りたらようやく家の近辺に着く。仕事終わりに更に歩くってなると最悪だが、幸いバス停からは極めて近くに実家はあった。
「ただいま」玄関の暗闇に響く。
真っ暗の渡り廊下。田舎特有の広さが行く手を阻む。電気をつけるところまで、廊下に備え付けられた手摺りを辿って行く。
ゆっくり、ゆっくりと居間に近づく。
居間の机の上。味噌汁、肉野菜炒め、米がよそわれてあった。
「もう寝たか?」一応、確認する。返答はない。
椅子に座り、LINEの緑の光。
『私の話、覚えてるよね。うちの親の話』彼女の言葉。
俺は閉じる。ふっと息を吐く。用意された冷め切ったご飯と、スマホの背面が並ぶ。
箸を持ち、味噌をゆらめかす。スマホのグレーを撫でながら。




