冷蔵庫の卵
「卵、1つ残ってるな」それを確認してから、私は今日買い込んだ食料品を冷蔵庫に入れていく。ネギ、大根、白菜、キャベツ、鶏肉、豚肉ひき肉。それと10個入り卵1パックと6個入り卵1パック。後者のパック、その1つは私がいる間に使い切る。後は置いておく、いつも。
これくらいもあれば大丈夫、心で話す。3日に一回、通い彼女。
「今日泊まってくの?」男の丸い声。
「明日の昼ごはんまではいるよ。それから帰る」犬の様にキャンキャンと寄ってくる彼氏に私は言葉と笑顔を返す。
「じゃあ、菜々の料理が3回食べられる訳だ」
「朝は眠たいから作らないよ。卵かけご飯でも食べてな」
「えー、俺料理できないよ」
「こだわらない卵かけご飯は料理のうちに入らないでしょ」
「そうかなぁ」
私は豚ひき肉を取り出すと作業を始める。
「晩御飯、何?」
「ん?ロコモコだよ」
「ロコモコ?」
「知らないか。ご飯の上にハンバーグと目玉焼きを乗せたハワイ料理」
「ふーん、知らない」そう言って彼はキッチンを後にしようとする。
「ちょっと待って。今、ハンバーグのタネ作ってる所だから先に目玉焼き焼いといてくれない?」私の意見に彼氏は怪訝そうに視線を送る。
「出来ないよ。焦がしちゃう」
「あぁ、そうか」少し深呼吸をする。私は言葉を続ける。
「じゃあ、その卵。残ってる1つ出しておいてくれない?」
「それなら、お安いご用」
「ありがとう」
私の言葉を聞いてから、彼氏は風の様にヒュルリと居間に移動しようとする。
卵を熱したフライパンに落とす。
「そういえば、ロコモコってね。スペイン語で『クレイジー』って言う意味があるんだって」
卵にガリガリと熱が浸透していく。彼氏の他愛無い返答が小さく聞こえる。
「後、ちょっと意訳だけれど『大胆に遊ぶ奴』って意味もあるのよ」
白身がじわじわと柔らかさを失って、堅固に変化する。箸で黄身を撫でる。煮え立つそれを私は固まる前に刺し割った。




